第4話 因果応報


 日が沈み、黄金に輝き始めた夕暮れの学園。


 俺は本日の授業もすべて終わり、学園にある大きな図書館で時間を潰した後、ゆったり歩きながら帰宅している途中だった。


「オラぁ!」


 突如、俺の通常より発達した聴覚が男たちの喧騒を感じ取った。音がした方向に目を向けてみると、どうやら少し先の建物の裏から聞こえてきたようだ。


 何やらよからぬことが行われている気配に「無視するか?」っと頭に浮かんだがすぐに頭を振る。


「まあ、見に行ってみるか」


 そういい俺は建物に向かい歩みを進める。


 学生たちもすでに帰宅をしているものが多いため人気も少ない。やがて目的の場所に到着し、建物の陰から様子を伺うと目に入ったのは一人の生徒が集団で暴行を受けている光景だった。


「もっと泣けよ!オラオラ!」


「ごめんなさい、ごめんなさい!」


 どんどんと倒れている生徒に対して蹴りを入れており、されている生徒は泣きながら許し乞いをしている。


 見たところによると俺と同じⅮランクの生徒がいじめられているようだ。


 まあ、今朝の出来事を思い返いしてみると分かるがよくあることだ。この実力至上主義の学園ではこうしたいじめが横行しており、大半の講師も見て見ぬふりをしている。


 しかし、ここまで顕著に暴行を加える生徒は少ないと思うが、たぶん今朝の俺みたいになにかしら適当に難癖をつけられたのだろう。


 かわいそうに。


 うん?っていうか、よく見てみると今朝のあいつらじゃね?


「はは、だいぶ身の程が分かってきたみたいだな」


 ガラの悪そうな生徒が息を切らしながらそういうと、蹴るのをいったんやめる。もはや蹴られている生徒は顔に所々大きなあざができ、その姿は痛々しいほどにボロボロだ。だいぶ長い時間暴行されていたのだろうか。


「でも、まだまだ足りなくね?謝罪が」


「うーん、そうだ!今日の授業で習ったあの魔法をこいつで試し打ちしてみねぇか?」


「お、いいねぇ!」


 どうやら魔法を使おうとしているようだ。無抵抗なものに対して魔法を使用しようするのは明らかな過剰暴行だ。


「仕方ない」


 俺は介入するか決めかねていたが、その一言を聞きすぐさま魔法の準備をする。今朝の件もあるし、少し復讐的な意味も込めてお仕置きしていやるか。


 男たちが魔法を発動するために魔力を放出したと同時に、俺の右手に黒い雷が迸る。目の前の空間に対して魔法を発動させると、ブゥーンと電子音のような音が鳴り極小の黒い点が生まれた。


 そして俺は相手のとして、引力を発生させる。


「どうした?」


「いや、なんか魔力が引き寄せられているみてぇで安定しないんだよ」


 男たちは自らの魔力が安定せず、魔法が発動できないことを戸惑っていると、俺は次の点を発生させる。


 すると男たちは突如として浮かび上がり、そして上空に向かい飛び始めた。その様子はまるで空に落ちていくようである。


「うわ!!」


「急になんだ!?何が起こってんだ!?」


「おい!誰の魔法だよ!」


 俺が今度発生させた点は男たちのはるか500メートル上空であり、今度は奴らの体を対象として発動させている。ある程度の速い速度に設定して浮かび上がらたため、すぐに上空の点に到着した。


 俺の重力魔法「自由引力フリーホール」は対象の取捨選択が可能であり、点を発生させることで特定のものだけを引力で引き寄せることができる。また点を出すことができるのは自身の体と、俺が魔力感知できる範囲内となっている。


 ちなみにこの特定のものだけを引き寄せるという部分が鬼ムズで、これを習得するだけでほぼ100年ほど使った。


 俺はすこし嫌な記憶を思い出しながら、上空の男たちに対して目を向ける。遠目から分かるぐらいには怖がっており、突然起こったことに対して認識が追いつかずかなり焦っている様子だ。


 うん、あの焦りようだと飛行系の魔法は使えないようだな。


「よし」


 そういうと上空の点を消す。

 引力が発生していた点を消したことで今度は地面の引力に引き寄せられ、男たちは猛スピードで自由落下をし始めた。


「ぎゃああぁぁぁあぁあ!」


「助けてぇぇぇぇ!!」


 そんな悲鳴を上げながらも止まらぬ勢いで地面は近づいていく。

 やがて地面にぶつかりそうになった瞬間。


「ほい」


 今度は少し上に点を発生させることで体を優しく持ち上げて、クッションにでもでもあたったかの様にポンと男たちが浮かび上がった。そして、ふんわりと地面に落とす。 


 男たちはどうやら今のことで気絶してしまったようで、ぐったりしている。またよく見たらズボンの股間のところが濡れているので、もしかしたらあれが出てしまっているかもしれない。


「まあ、こんなもんだな」


 若干私情が入ってしまい、お仕置きにしてはやり過ぎてしまったかもしれないが、ただこいつらがした行為にはこれぐらい妥当だろう。


 そう思っていると、暴行を受けていた生徒が今の不可解な現象を目にして、「ひっ」と声を上げて走り去ってしまった。恐らく、自分にも同じことが起きるのではないのかと怖くなってしまったのだろう。


 そんな心配いらないんだけどなぁ。




「おい、声はこっちからだ!」


 そうしたことを考えていると男たちの悲鳴を聞いていたのか、騒ぎを聞きつけた者たちが異変を感じ取りこの場所に人が集まりつつあった。


「さてと、俺も早々に退散しないとな」


 かかわりがあると思われると面倒になるので、俺はそそくさとその場を後にして帰宅するのだった。






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