第5話 魔法練習
あの日から数日後、学園内では奴らの話題で持ちきりだった。
「ねぇ、知ってる?お漏らしして倒れてた学生の話」
「えー、何それ、やっば」
「知ってる知ってる!なんか悲鳴を上げてて駆けつけてみたら、生徒が小便漏らして倒れてたんでしょ?」
「そうそう。それでなんか倒れてた学生によると、空に飛んだと思ったら次の瞬間には地面に落とされそうになってて、気づいたら倒れてたんだって」
「何それ超受ける。誰が信じんだよそんな嘘。要するに夢でも見ながら寝てたらお漏らししちゃってたってことでしょ?」
「絶対そうだよねぇー。しかもその学生、Aランクの生徒らしいんだよ」
「まじ?」
俺はそうして話している女子生徒たちの会話にこっそり聞き耳を立てていた。
どうやらアイツら、みんなに話を信じてもらえずに頭がおかしい人認定されてしまったらしい。
まあ、そんなことを急に言われたとしても、突拍子な出来事過ぎて信じられるわけないもんな。
完全にこの噂は学園中に広まってしまい、奴らは夢オチ小便小僧やお漏らしのAさんなど、かなり不名誉なあだ名を拝命されてしまったそうだ。
本人たちもそんな感じで学園内で居場所を失くしてしまい、みんなから陰口を吐かれてしまっている状態だ。
うーん、やっぱりやり過ぎたかねぇ。
いやいや、しかしながらあのままだったらあのⅮランクの子も危なかっただろう。俺はいいことをしたんだよ、うん。
「ねぇ、聞いてる?」
「聞いてるとも」
「本当に?」
「うんうん」
「じゃあ、ぶん殴っていい?」
「うんって、へ?」
とそう返事をした途端顔面を拳でぶん殴られた。
「ひでぶ!」
そう言いながら俺は地面を倒れる。
「きゅ、急になにすんねん!」
「だって殴っていい?って聞いたら「うん」って返事するから」
そう話すメルはまるで悪びれた様子もなく、振りぬいた拳を下げる。しかも女の子がグーパンなんて、くっ、流石は異世界だな。
「というかずっと私が話してたのに、全然聞いてなかったでしょ?」
俺は図星を突かれてギクリッと体を跳ねさせて動揺する。
「そ、そんなことないよぉ~」
「・・・はあ、まあいいや」
とぼける俺を見て、メルは呆れてため息を吐いた。
現在、俺はメルの魔法の練習に付き合うという約束で学園にある総合訓練場という施設に来ている。
ここは前世の体育館のような内装と似ているが、それと比べても面積が尋常じゃなくでかい。多分10倍以上は絶対にあると確信させるほどの大きさだ。かなり大きな空間のため、俺たちの他にもここを利用している学生は多くいる。
「とりあえず、見てもらっていい?」
「すまん、分かった」
俺の返事を聞いたメルは前に手をかざす。
魔力の放出が始まり白いオーラが手から出る。そしてその魔力が水色に変色していく同時にメルが「水の壁・弾」と声を出す。しかし魔力の変色が突然止まり、それを見て魔力の放出を中断した。
「どう思う?」
「うーん、見た感じ魔力の性質を変化しきれてないって感じだな」
「そうだよねぇ~、きちんとイメージはできてるんだけど、どうしてうまくいかないんだろう?」
そう言いながらメルは唸り声をあげる。
属性魔法を発動するプロセスには四段階ほど必要になる。
①魔力の放出をして魔法を発動するための下地を作る。
ここでは自分が発動しようとしている魔法の等級に見合った魔力を放出することが必要だ。
②魔力の属性を変化させる。
つまり火属性魔法を使用するならば火の属性魔力に変化させる。水魔法を使いたければ同様のことを行うというわけだ。
ちなみに特質魔法や信仰魔法、種族魔法はここら辺からプロセスが異なる。
③魔法が行われるように脳内で魔法陣を構築する。
これは書物で書かれているものでも、オリジナルの魔法を頭で思い浮かべるものでもいい。ここでは要するに魔法の形や性質を魔法陣として構成する、ということが大事なのだ。
④構築した魔法陣を変化した魔力で魔法を実行する。
以上の順でこの世界の魔法師は属性魔法を使用している。
さっきのメルは魔力が変色しきれてないままの様子を見るに、属性変化がきちんと完了されておらず、結果魔法が不発で終わってしまったのだろう。
「焦って魔法を発動しようとしたのも原因だな」
「やっぱりそっか。魔力って放出するとすぐ周りの空気に溶け込んじゃうから、早く発動させないとって思ってると、つい焦っちゃうんだよねぇ」
魔力は体外に放出するとすぐに霧散してしまう。そのため魔法の発動が完了するまで魔力を放出し続けなければならないのだ。そしてもちろん、魔力を放出するということは自身が持つ魔力量も影響してくる。
なので一流の魔法師は魔法発動をできる限り高速で行い、魔力のロスを失くしていたりする。早く出す方メリットもあるし、継戦能力も上がるからだ。
まさに一石二鳥である。
まあ、魔法の難易度なんかもあるから、一概に発動速度については何も言えないが。
「今日の授業で水魔法に付与できる性質の話しててさ。その中に弾性っていうのがあったから水魔法に付与してみようと考えてるんだけどなかなかうまくいかなくて」
「なるほどね。要するにスライム?みたいな弾力のある水壁を作ろうとしてたら失敗しちゃったってわけか」
「そそ」
となると魔力性質を水に変化させようとすると同時に、弾性の性質付与を行おうしたから失敗しちゃったってわけか。
性質付与とは属性魔法と相性がいい性質を、魔法陣に付与することができる技術である。
たしか、魔法陣を脳内でイメージする際、弾性を加える魔法陣も重ね合わせる必要があるらしい。脳内に無駄なリソースを割いてしまい、メルのように魔力変化をしながらだとなかなか難しいみたいだ。
あまり使っているものはいないが、まあ使いこなせれば戦闘などの幅が広がるだろう。
「もう少し魔力を落ち着かせないとだめだな。あと魔力放出するときにはもっと手に意識を向けたほうがいい」
そう言い、俺は全身から魔力を放出して操作する。体中の魔力配分変えながら移動させ、やがて魔力を手に全て集中させてから放出を止めた。
「やっぱりアレスの魔力操作はすごいね・・・、これほどの魔力操作ってSランクの人でも難しいんじゃないかな」
「はは、世辞はよせやい」
そう言って照れる。
「まあ、性質付与は俺の範囲外だからアドバイスできないが、もっとイメージを固めたほうがいいんじゃないか?」
メルのほっぺをツンツンとつつく。
「もっとぷにぷにと弾力のあるものに触れたほうがいいぞ~(ぷにぷに)」
「殺すよ?」
「ひっ、す、すんません・・・」
本気で殺されそうな目で見られて、俺は恐怖で体を萎縮させた。
そうして今の魔法をもう一度発動させようと、メルが魔力を放出し始めたとき。
「やあ、お嬢さん」
横から男が近づいてきた。どうやら襟のピンを見る限りAランクの者らしいが、チャラチャラと金のアクセサリ―をつけているところを見るに、相当自尊心が高そうな感じだ。
「たった一人で何をやっているんだい?良かったら私と一緒に練習しないか?」
そういい男がメルに対して話しかけてきた。俺の存在が見えてないのだろうか、完全にガン無視である。メルは魔法の発動を中断して、不機嫌な顔をしながら男の顔を見る。
「えっと、今一人じゃないんですけど・・・」
と俺の方を見る。
「いや、どう見てもひとりじゃないか。うん?ああ、そこに落ちてるゴミが気になるのかい?」
男は今気づいたといった感じでこちらを見てくる。その目はどこか侮蔑的なようだ。
「おい、ゴミ。ここはお前のような価値のない者が来ても意味もない場所だ。即刻立ち去れ」
それを見たメルは怒った様子で男に対して話す。
「その人は私の友達です。無価値なんかじゃない、あまりバカにしないでください」
「はは、君も面白い冗談を言うな。Ⅾランクと友達?君はもう少し付き合うものを考えたほうがいい」
「えっと、あの」
不穏な空気を感じて俺が声を出そうとすると男は手で静止をただす。
「口を開くな。無能がうつる」
胸ポケットから取り出したハンカチを口に当てながらそう言われる。
まるでこちらを人間だと思ってないような態度に、さすがの俺の鋼のメンタルも少々傷つく。さすがにちょっと言い過ぎなんじゃないんすか、君。
「無能じゃない!アレスはあんたなんかより何倍も強いんだから!」
「へ?」
メルがムキーっと怒りを露わにし、そんなことを言いだす。え、何言ってるんだいメルさん?
「ほう、このゴミが、僕よりも、強いだと?」
ピキっとおでこに青筋を浮かべる男は、その一言に相当怒りを感じたようだ。
「ランクの意味も分かっていないようだな女。いいだろう、そんなに言うんだったら模擬戦でもするか?瞬殺してやろう」
「望むところだよ!やっちゃいなさい、アレス!!」
「えぇ~!?」
そうして急遽、俺と男の模擬戦が決まってしまった。
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