俺は学園生活を静かに過ごしたい。～転生特典として重力魔法をもらいましたが、難しすぎて1000年も修行することになりました～

第19話 説明

「で、具体的には護衛とはどうすればいいんでしょうか？」

　俺は彼女の頼みを了承したのはいいが、護衛なんでやったこともないしわからん。

「そうだな、護衛として私の近くから離れずに私を守ってもらいたい。朝から晩まで、ずっとだ」

「なるほど」

　確かに護衛なのだからそれぐらいは当然か。

「だから君にはこれから2週間、私の家で暮らしてもらう」

「・・・え？」

「当然だろう？護衛なんだ。業務を果たすには必要なことだよ」

　いや、まあ確かに・・・。というかシオンさん、男を家に上げるのというのに抵抗はないのか？

「えっと、一応わかりましたけど・・・いつから護衛をすればいいですか？明後日からとか明日からとか？」

「今日、今ここからだ」

「・・・」

　うん、俺の予定とかはガン無視ですかい。

「それはちょっと・・・。一応しばらく姿を見せない心配するものもいるので・・・」

　ユリウスとかメルとか、あとはバイト先にもしばらく休むから連絡を入れないといけない。

「・・・ふむ。そうだな、確かに一理ある」

　青色の瞳を伏せて、目の前の女性がそういう。

「まあ最低でも明日から・・・」

「よし、じゃあその者たちに今から説明しに行こうか」

　そういうと彼女が立ち上がった。うん？説明しに行く？

「そ、それはどういうことですか」と俺が言いかけると、目の前の女性が「君も友達少なそうな匂いがするからすぐ済む話だろ」などととんでもなく失礼なことを言ってくる。

　くっ、悔しいが本当のことだから何も言えないぜ。

　そう思いながらも「・・・分かりました、行きましょう」と返事を返して、俺たちは部屋を出て研究棟を後にしたのだった。

　まずは先ほどまで一緒にいたメルのところに行き、話をしに行く。ちょうど2限が終わり、お昼休みの時間なので恐らくではあるが、昼食をとるために食堂にいる時間だろう。

　食堂で彼女と一緒にその姿を探していると案の上、女友達と談笑しながら食事をとっているメルの姿が見えた。

「メル」　

　俺がそう声をかけると、驚いたかのように彼女が振り返る。そんな彼女の口にはハンバーガーのような、パンに肉と野菜を挟んだようなものが咥えられていた。

「ほうしたのはれふ（どうしたのアレス）？」

　口にくわえたまま話したためか上手く聞き取れなかったが、恐らくどうしたのと聞いてきたのだろう。

「ああ、ちょっとメルに話したいことがあってな」

　そう言って、俺の背後にいる彼女の研究に付き合うので、しばらく学園の授業を欠席するという旨をメルに伝える。

　護衛をするため、という本当のことは教えない。詳しい事情を説明するのは色々難しいからだ。

「研究って・・・、後ろにいる人ってあのシオン・ストゥースさんのだよね？」

　メルは俺の耳に顔を近づけて、小声で話してかけてくる。

「なんだ、有名な人なのか？」

「それはもう有名だよ。だってわずか21歳という若さでこの学園の研究棟に招かれている天才だよ？それにあの美貌もあるし」

「へぇー」

　確かに、研究員の人って中年か初老のおじさんとかしか見たことないな。あの人、ゴミ部屋で研究してる性格してるし、すこし捻くれてそうな人だけど中々優秀なのか。

「分かった、アレスはしばらく授業に出ないんだね。ちょっと寂しいけど我慢するよ」

「はは、すまん。だが二週間だけだから」

「うん」

「すまんな、メル君。少しこの青年を借りるだけだ」

　そう言って背後にいたシオンさんもメルに謝罪する。メルはそれに笑顔で「大丈夫です」と返答したことで、俺は昼食を邪魔するのもいけないと思い、別れを告げてその場を後にしたのだった。

－－

　アレスとシオンという綺麗な女性が立ち去っていく。目の前に座っている眼鏡をかけた友達が困惑しながら何か質問してくるが、私の耳にはそんなことは一切入っていなかった。

　この前のアレスと距離が近づいたあの日。

　なぜかアレスを見ていると顔が熱くなり、心臓の動悸が早くなる。苦しいわけではないし、緊張している訳でもない。

　わからない症状、だけどなぜか胸の内側が温まり心地いい。嬉しいという気持ちに似てるし、幸せという感情にも近い不思議な感じだ。これは何なんだろうか。

　私はアレスとシオンさんの背中を見つめる。二人が何か会話をしているのか、お互いの顔を見て話している。二人で、一緒に。

「・・・」

　私はなぜかその姿を見て、「なんかいやだなぁ」っと胸にチクリと違和感を残した。

－－

　俺たちは昼時だからか、少し騒がしい様子の食堂を出た。周りのものから注目されているのを俺はどことなく居心地の悪さを覚えて、少し人気が薄まった場所まで来て彼女に声をかける。

「先生、フォトンって持ってます？」

「うん？持っているがそれがどうしたんだ？」

　そう言い彼女はポケットから通話ができる魔道具を取り出す。

「ちょっと通話を掛けたい相手がいて、貸してくれませんか？」

「別に構わないが」

　そう言い、俺にフォトンを手渡す。えっとあいつの番号って何だったっけ・・・、と記憶にある数字を思い出す。そうして、数字の書かれているボタンを押して相手に掛ける。

「・・・出た」

　相手型が通話に出てくれたのか、魔道具に埋め込まれている魔石が赤色に輝く。

「もしもし？ユリウスで大丈夫か」

『うん？その声はもしかしてアレスかい？』

「そう俺。いま知り合いのフォトンを借りて通話をかけてるんだ」

『なるほど・・・、で？どうしたんだい？』

　俺はメルと同じ説明をユリウスにもする。

　『君が研究員の手伝い？珍しいね』

　俺の性格上、研究を手伝うという事はあり得ないと思ったのだろう。ユリウスは驚いた声でそう言ってきた。

「端的に言うと金だ」

『ああ・・・、なるほど』

　ユリウスは前に話した時の臨時の出費の話を思い出したのか、深く納得した。もちろん臨時の出費とはクレスのことだ。あの爆食シスターめ・・・。

「そういうことだから二週間、俺は自由に身動きが取れん。だからしばらく昼食はなしだ」

『うっ・・・、それは残念だね・・・』

　本当にがっかりしているのか、気分が落ちたような声がフォトンから聞こえてくる。

『事情は分かったよ、それじゃあ研究の手伝い頑張ってね。また二週間後の水の目で会おう』

　水の目とはこの世界における曜日的な役割のもので、魔法基本五属性の名を借りて○○の目と呼んで分けている。

「了解、またな」

　俺はそう言い、通話ボタンを切った。

「君・・・、今のはもしかしてユリウスとはユリウス・アルクリッドの事か？」

　後ろにいたシオンさんが面を食らったいった表情をしていた。

「ええ、まあ」

ユリウスとの関係は学園では基本的に隠している。だって、多分あいつの隣とか歩いてたら女性に目で殺されそうになるんだもん。怖いよ。

「すごいな、あの「聖騎士」と知り合いとは恐れ入った」

「まあ、気さくな奴ですからね。友達が多くて、俺はその一人ってだけです」

「・・・ふむ、ただの友達といった関係だったか疑問ではあるが・・・」

　そんな彼女をしり目に、俺は次にバイト先のお店に通話をかける。

　出たのはオーナーの娘さんで、俺が事情を話すと少し驚くが快く応じてくれた。

　その際、俺は先日に見た光景を思い出し、なかなか苦々しい顔を浮かべてしまった。だが通話している状態では声でしか伝わらないため、俺は顔を見られずに安心した。

　通話を切ると俺はフォトンを彼女に返す。

「よし、次は誰だ？」

「以上です」

「・・・・・以上、か。先ほどの通話の様子から見るに、バイト先の人と連絡をしていたのだろう。あの聖騎士と友人という事には驚いたが、やはり君も友人が少ないのだな」

　うんうん、となぜか彼女に頷かれる。そして肩に手を置かれて「安心したまえ」と言い、同情のこもった目で見られる。

「友人なんぞは所詮は飾りなんだよ。だから対して作る必要もないし、むしろ飾らない自分を見せるという事が私は大事だと思うんだ、うん」

　彼女は俺に仲間意識を芽生えさせたのか、そうした彼女の中にある友達理論というものを早口で話される。

「えっと、大丈夫ですか？」

　異様な彼女の様子に俺は怖くなり、そう声をかける。

　すると彼女はうつろな目を浮かべていたが意識を現実に戻して、顔にあるモノクルの位置を正して「ごほん」と咳ばらいをする。

「すまない、少々取り乱した。そうだな、もう用が済んだという事であるなら、君の住む寮に行くぞ。これから二週間も開けるのだから色々準備があるだろう。それから私の自宅に向かう」

「自宅・・・」

　女性の家か、前世を除くと初めてだな。

　そんなことを思い、過去の前世の記憶を思い出す。俺の記憶というのは神様の話によると、魂の方に保管されているらしい。脳内による記憶じゃないためか、1000年の修行を経たとしても忘れることは決してない。

「行くぞ」

「了解です」

　俺はそう了承して歩き出す。そうして歩きながら上を見上げて、澄んだ青空を見る。思い浮かべるのは10歳も年が離れていた女の子の顔だった。

「元気かねぇ」

　そう、届くはずのない言葉を天に送った。