第9話 噂

「いやぁ、本当においしかったよ」


「そんなにおいしかったか?」


 俺は苦笑しながらそう返すとユリウスは「もちろん」と返答する。


「前に王宮で食べたものより断然おいしかったよ。やっぱり君の料理は格別だね」


「お、おう」


 どうやら、俺の料理は宮廷料理人が最高級食材を利用して作る料理よりおいしいらしい。


 いや、そんなことは決してないと思うのだが、実際そういわれると結構照れる。


「あ、そうだ。アレス、これを見てくれ!」


 そう言って、嬉しそうにユリウスが見せてきたのは、最近流行りの通信ができる魔道具だった。


「先日王城に行ったときに魔工技師にもらった、最新モデルの「フォトン」なんだ」


「へぇ〜、すごいなぁ」


 ユリウスが手に持っている、見た目がフ○ミコンに似ている板型の魔道具を見る。「フォトン」というのは、いわゆるこの世界における携帯電話みたいなものの総称だ。


 フォトンのボタンには数字が記されており、前世と比べても概ね仕様は変わらない。


 光沢のある黒の配色とその頑丈そうな材質から考えて、明らかに高そうな印象を持つののだが、一体いくらぐらいなんだろうか。


「実はこれ、映像も記録できるらしいんだけど、説明されたけどやり方がよくわからないんだ」


「あぁ・・・」


 ユリウスは基本的に完璧超人ではあるが、アナログなところがある。いわゆる機械音痴ならぬ魔道具音痴なのだ。


 こうして一丁前に通信の魔道具を持っているが、着信に出ることはできても自分から掛けることはできない。


「ここに使用方法を記した紙があるから、アレスが説明して使い方を教えてくれないかい?」


「別に構わんが、前の音を記録する魔道具の時みたく力技で解決しようとするなよ?」


「はは、僕はそんな真似しないさ」


「いやいや、聖剣で叩こうとしてたじゃん・・・」


 コイツは「もしやこれ、壊れているのでは?」とか言って、どこで聞いたかわからない迷信信じた挙句、魔道具を聖剣で叩こうとしていた過去がある。あの時は慌てて止めたなぁ。


 俺はそんなことを思い出しながら、渡された紙を見て使い方を説明していく。ユリウスは「うんうん」と満面の笑顔で分かったかのように聞いているが、その実全く理解できていない。


 なぜならこのボタンを押せ、という指示をしているのに手元がピクリとも動いていないからだ。


「なるほど・・・、わからないな」


「もう諦めろ。お前は魔道具を使えない星の下に生まれたんだよ」


 俺がそういうとユリウス自身できない理由がわからないのか頭を悩ませている。


「うーん、魔道具を目の前にすると何故か手が固まってしまって、聞いても全く頭に入って来ないんだ。あと叩いてみたくなる」


「うん、重症だなそりゃ」


 昭和のジジイみたいなこと言いやがるなコイツ。


「最近、周りの人が持ち始めているから僕も〜とは思うんだけどね。やっぱり僕には使いこなせないみたいだ」


 ユリウスは少し悲しそうに言う。まあ、あったらとても便利なものだし、今後普及していく魔道具ではあると思う。今後もこういったものが発明されても、ユリウスは流行に置いていかれてしまうかもしれない。


 だが。


「まあ、ユリウスらしくていいんじゃないか?」


俺がそういうと、何故かユリウスが嬉しそうに笑みを浮かべる。


「はは、君ぐらいなものだよ。完璧を求められる僕にそんなこと言うのは」


「そうか?」


「そうさ、そしてそこが君のいいところでもある」


「何だそりゃ?よくわからん」


 そうして他愛もない会話をしていると、ユリウスが思い出したかのように「そういえば」と口を開いた。


「アレスはあの噂聞いてるかい?」


「噂?」


 はて、何か話題なっていることなんてあっただろうか。あいにく交友関係がユリウスとメルぐらいしかないので、情報みたいなのが全く耳に入ってこないんだよな。


 疑問符を浮かべている俺を見て、ユリウスは話を進める。


「聞いてないかい?最近、Dランクの学生が他のランクの学生に勝負を仕掛けて、勝利する事例が増えてきているみたいなんだ。ちょうど君がこの前戦った感じみたいにね」


「そうなのか?」


 「いや君は勝負を仕掛けられたんだっけ」とユリウスは笑うが通常、そのようなことはめったにない。なぜならばランクというものは、そのシステム通り実力を基準にこの学園が設定しているものであるためだ。


 俺の様に上位のランクのものに勝利するっというのは、本当ならばあり得ない話なのだ。というかなるほど、そのおかげもあってか俺の件が目立たずに済んだのかもしれないな。


「結構問題になっていてね。学園側からSランクとAランクの学生に対して、「気を引き締めるように」っていう異例の通達が入るぐらいだ」


「へぇ~、まあ確かにこれだと学園の審査が間違ってたってことになるもんな」


「うん、そうだね」


 学園側も審査基準に疑いが出てきたとなれば焦るのも無理はないだろうな。


「僕もちょうどDランクの人が模擬戦闘をしている場面を見てたんだけどね。あれならもっと上のランクでもおかしくなかったよ」


「ユリウスの目から見ても見合う実力があったってことか」


「うん、確かに相応の力はあった気がする。うーむ、やっぱり君みたいに特別な事情で力を隠している生徒がいるってことかな?」


 ユリウスには俺が「特殊な魔法が使えるから目立ちたくない」と実力を隠している事情は話している。


 でも他の生徒にもそういった実力を出せない背景がある生徒がいたということなのだろうか。


 しかし、それだと当然矛盾が生まれる。


「いや、だけどなぁ。それならなんで隠してたのに、今になって本当の実力を見せようと考えたんだ?」


「そこが気になるよね。なんでだろう?」


「急に女の子にモテたくなっちゃったとかね?」


「短絡的すぎないかい?その理由」


「さ、流石に違うか」


 俺は苦笑する。


「でもまあ、こうして下位ランクの人が頑張ってくれたら、カースト意識も薄れてくれるのかもね」


「そうだなぁ、そうなってくれたら嬉しいがな」


 そう話を片付け、その後もしばらく話していると鐘の音が鳴りお昼の時間が終了する。


「時間だね、それじゃあまた」


「おう、またな」


 いつものように別れの挨拶をして、俺たちはその場で解散したのだった。


 そう、いつものように今日も過ぎていく。


 しかしその日、俺の日常が変化する出来事が起きた。




☆☆☆

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