第10話(3)
お昼過ぎの午後イチ。
発見された盗賊ギルドの地下宝物庫は、もぬけの殻となっていた。
中にあったガラクタな盗賊の戦利品を全て地上に持っていき、空洞と化している。
ここに来ていた調査団の皆は遅めの昼食タイム。
どう頑張ったってこんなとこには侵入出来ないだろうし、仮に侵入出来ても盗める物なんて何も無いからと、見張りは一人も付けていない。
しかしながら、ここに来れる別の扉を知っている小さな少女ベティーは、お散歩気分で難なく侵入していた。
ホップ、ステップ、ジャンプよろしく軽快な足取りと身軽さで、今日も持ち前の明るさと能天気を武器にいざ出陣。
「おっ、丁度誰もいないじゃん。
やっぱりあたしは運が強いよねー。」
強運の定義は非常に難しいが、この世界では罠の発見・回避・解除、宝箱やレアアイテムの発見・取得などが主な要素として挙げられている。
直接攻撃・魔法攻撃の命中・回避・防御は、技量であって運ではないという見方になっていた。
そんな世界に存在するホビットやレプラコーンなどの小人族は、理由は不明だが運気が強い。
そして自称“世界一美しい女盗賊”のベティーも、強運は最大級。
だから変なところで自信満々になってしまうという一因にもなっているのだが・・・。
運が強いと自分で断言しながら“ゴーイングマイウェイ”ならぬ“ゴーイン(強引)なマイウェイ”で、問答無用に突き進む究極の問題児と化している。
その問題児が空洞の宝物庫の中心まで歩き、天井にある文章を読んでいた。
「昼の顔と夜の顔。
同じ人物でも時が変われば姿も変わる。
魔も然り。
月の満ち欠けは時の門番。
満ちた時、真の姿を解放す。」
調査団が見つけていた、解明出来なかった一文。
しかしベティーには分かるのか、これを読んだ直後に
「うげ。」
と苦い青汁でも飲んだかの様な顔をした。
「バーバラ婆ちゃん、これ言ってなかったじゃん!
あたしに“あそこ”に行けって言ってるようなもんでしょ!!」
やはりベティーは、この一文を理解しているらしい。
どこに行って何をすべきか、分かっている口ぶりだ。
・・・行きたくない場所というのも確かなようだが、さて。
「仕方ないなあーもうー!
婆ちゃん何も話してなかったって事は、あの中年オヤジにあたしがこの国に戻ってきてるって話してるって事だよねー・・・。
よし!!
また説教されそうだから、良い耳栓持って行こう!!!」
説教されるのは、ほぼ確定らしい。
さすがは希代の問題児。
そう語ったベティーの姿は、すぐに宝物庫から消え去っていた。
城下町西門。
王宮騎士団第4軍のラルド将軍は、ここにある王宮護衛団の駐在所に立ち寄っていた。
西部国境にある自陣から戻って来た伝書鳩からの書面を読んでいる。
どうやら先に向こうに送って、その返事が返ってきたらしい。
ラルドはその返信を読み、
「フ、フフ、動いてくれるか。」
と、畏怖を込めた感情を露わに声を出す。
騎士団最強とも目される男が、こんな声を出す事があるのか。
共に行動している配下たちが、ゴクリと生唾を飲み込んだ。
誰宛てに送っていた伝書かは、語られずとも周知されている。
「グラッグ・ドーガンですか。」
「ああ、私は国境警備の任が最優先と言われている故、今回の一件に関して直接関わる事が出来ぬ。
城下町南門はミシュランに託したからいいが、こちらの西門も万全を期しておかねばならぬからな。
大陸一の傭兵と名高い男の手腕、お手並み拝見といこう。」
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