第14話(1)

 奪い取った杖を背にしているハイエルフの男セルムは、なるべく目立たぬ様、濃いカーキ色のローブをまとっていた。

 フードを深く被り、路地裏でキョロキョロと目的の店を探している。

「ここか。」

 見つけた路地裏の酒場は

『本日は休業です』

 と書かれたプレートが扉の取っ手に掛けられている。

 セルムは休業という言葉をまるで無視。

 扉の取っ手を握り、押すでも引くでもなく、軽く真下に動かした。

 カチッ

 音がしたのを確認すると、セルムは取っ手から手を離す。

 そして取っ手の付いていない方に掌を当ててゆっくりと扉を押した。

 すると扉が開き、中に入る事が出来た。

「凝った仕掛けを用意したものだ。」

 中は酒場。

 表の仕様から、隠れ酒場なのだろうと容易に思える。

 客層は、一癖二癖ありそうな訳アリの者どもばかり。

 ・・・今は俺も同類か。

 そう感じながら内心笑い、カウンターの空いている席につく。

 カウンター越しにいる、40代半ばくらいの店員らしき男が睨むような目つきになった。

 一見さんでも常連の連れなら許せるが、単独で来店となると話は別だ。

「見ねえ顔だな、誰の紹介だ?」

「サーフという名のハイエルフから、と言えば分かるか?」

 セルムは応えながらフードを外す。

 エルフとは異なる、ハイエルフ特有の長く尖った耳を見せた。

「そうか、お前がセルムか。」

 店員は応えながら背を向き、棚から瓶とグラスを手に取る。

 グラスに赤ワインを注ぎ、セルムに差し出した。

「? まだ何も頼んでいないが。」

「サーフって奴が赤ワインのボトルを1本キープしてたんだよ。

 近々マハラティーニに帰るんだろ?

 なら、このボトルの残り飲み切ってくれ。」

 俺に飲ませる分を残していたのか。

 相変わらず律儀で世話好きな奴だ。

 そう思いながら、セルムは頷いてグラスを受け取った。

「なら、頂こう。

 それと、仕事の依頼をしたいのだが。」

 店員はスライスしたチーズを差し出しながら頷く。

「ああ、サーフから聞いてるぜ。

 杖を国外に持ち出してほしいってんだろ。

 持ってきたのか?」

「ああ。」

 セルムは立ち上がり、ローブを脱いで背にしていた杖を取り外した。

「これだ。

 元々我らの国にあった物らしいのだが、訳ありでな。

 派手な装飾のせいもあって、どうすべきか悩んでいた。」

 杖を手に取った店員はその装飾、特に7つのルビーをしげしげと見つめ

「厄介極まりねえ杖だな。」

 と言い切った。

 仮にルビーを外せたとしても、粒がデカいから簡単には売りにも出せねえ。

 こんなもん、市場に出せば足が付きやすいのは明白じゃねえか。

 俺ら盗賊には手に余る代物だな。

「無理か?」

「いや、大丈夫だ。

 方法が無いわけじゃねえ。

 ただ国外って話になると、距離の都合で西部国境の一択になる。

 それでもいいか?

 城下町の外でいいなら選択肢は増えるが。」

「あ、西部国境でいい。

 当初からその予定だ。

 但し、動くタイミングは・・・。」

 セルムが一つの作戦を店員に語る。

 それを聞いた店員は、少しの間言葉を失っていた。

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魔術ファミリー“ウェストブルッグ”3『魔導師の杖』 牧村蘇芳 @s_makimura

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