第13話(1)

 大聖堂から来たというハイエルフの司祭ゲールは、城下町の観光を満喫していた。

 寺院の僧侶たちからは、

 大通りであるロードストリートとソルドバージュテンプルストリート、

 城下町の各方面にある門の付近、

 これらの近辺は治安が良く見て回るならお勧めですと聞いたので、それに倣って歩き回っている。

 大聖堂の司祭の法衣は目立つから、よく敬虔な者たちに声を掛けられ、その都度祈り、談笑していた。

 ハイエルフの司祭だから、とっつきにくいのかと思いきや話せるじゃないかと、随分庶民に人気があるらしい。

 そう、とても邪教集団ラハブの教祖とは思えない身の振りようだ。

 南区に来ると懐中時計を見て

「あ、もうすぐお昼ですね。

 ではここに入りましょうか。」

 と海産物の定食で有名な食堂の暖簾をくぐる。

「はい、らっしゃい!・・・お、ハイエルフの司祭様じゃないすか。

 海産物は大丈夫なんで?」

「ええ、肉類はアレルギー反応が出て食べられないのですが、不思議と魚介類は大丈夫です。」

 こたえながらカウンター席によいしょと座る。

 隣には黒いフードを深く被った男が本日のお勧め定食を食べていた。

 うん、私もこれがいいですね。

 ほうじ茶を受け取るとすぐに

「お勧め定食をお願いします。」

 とオーダーした。

 そして隣の男に念話する。

『ご苦労様です。

 杖は奪い取れましたか?』

 こんな念話を始める当たり、今までの行動は全て表向きの芝居だったようである。

 この店に入ったのも偶然などではない。

『杖はセルムが持っています。

 他の仲間は影で出来た守護獣みたいなのに殺されました。

 生き残ったのは俺とセルムだけです。』

『・・・それは辛かったですね。』

『仲間の遺体は王宮護衛団の者たちが運び出したようです。

 今は旧貿易倉庫の1つに安置されています。』

『この国の者が、賊がハイエルフだと知ってどう動くか・・・。

 おそらく私の動きも今後マークされる事になるでしょう。』

『・・・俺に接触するのはマズかったのでは?』

 ここまで念話していると、向かいから定食がドンと出される。

「はい、お勧め定食お待ち!」

 本日はブリをメインにした定食だった。

 ご飯は丼で、上に醤油漬けしたブリの切り身がびっちり。

 その他に刺身とフライ、焼いた骨を使ったスープ。

 そしてサラダと漬物少々。

 極東の国インタテスラにある定食を再現したのだという。

 ふっふっふ、最高じゃないですか。

「これは美味しそうだ、いただきます。」

 そして食べながら念話の続き。

『接触しなければならない理由が出来たのです。』

『それは?』

『杖はこの国に留めるという最初の話が無くなりました。

 杖は封印を解除する役目も持つから、マハラティーニに持ってきてほしいとの事です。』

『え!?』

『私も先ほど来た伝書で知りました。

 その為、向こうに残っていたラハブの幹部全員がこの国に来るそうです。』

『その情報は信用できるという事ですか?』

『武器商人から聞いたという話です。

 どのみち手詰まりだったから、この話に懸けるとか。』

『・・・確かに杖が抜かれた後は、今まで何事も無かったですが・・・。

 妙な違和感があります。』

『それは?』

『杖が封印の解除も果たすなら、何故当初あの地に刺さったままだったのでしょう?

 もし誰か一人でもその真実に気付いていれば、さっさと封印を解除出来たんですよ?

 本当に解除を恐れるなら、さっさと抜いてどこかに隠せば良かったじゃないですか。』

『・・・サーフ、貴方冴えてますね。

 という事は、冒険者たちに杖を抜かせ、他国に隠蔽させるよう仕向けたのは、ラハブ復活を望まない者・・・!』

『まさか!?』

『ええ、我ら邪教集団ラハブの中に裏切り者がいます。』

 念話とは対照的に、定食を食べ終えたゲールはとても満足そうな笑みを浮かべていた。

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