第12話(3)
この世界において、ワーウルフ(人狼)等のライカンスロープ(獣人)系はモンスター扱いではない。
国によっては差別的な格差があるかもしれないが、ガーディア国のあるシャンテ=ムーン大陸では人と同格として見ていた。
だが城下町の様な首都圏ならともかく、地方となるとその扱いは微妙。
酷いと鎖で繋がれ奴隷扱いするところもあるという。
そんな獣人たちにとって巨大12国家の首都圏は憧れの地だ。
普通に平等に接してくれて、普通に職に就き、普通の生活を送る事が出来る。
だからなのか、獣人たちは人よりも親切丁寧で真面目な者が多い。
間違っても盗賊ギルドとは無縁だろと思うのだが・・・。
盗賊ギルド・ナンバー2“マスト”の幹部には例外の男がいた。
そして、盗賊ギルド“セイル”が酒場だったように“マスト”もまた表向きは別な姿を持っていた。
まさかここが盗賊ギルドなどと誰も疑わないほどの、老舗の工房が。
城下町南東部。
東部にセレネ魔法学園、南部に貿易センターを構えるその間の区域は、職人街と問屋街であった。
そこに生地屋ルリアーナという大きな生地工房がある。
主にアパレルブランドの工房に納品している老舗の生地屋。
近年では他国の工房への輸出も積極的で、工房を増築し人員を増やしたのが、まだ人手不足だとか。
その生地工房の受付に、ひょっこりと現れた小さな女の子がいた。
「こんにちわー!」
「あら、ベティーちゃん、いらっしゃい。
遂にうちに就職する気になったの?」
「なわけないでしょ。
あたしは世界一美しい女盗賊様なんだからねー!」
自身を盗賊と公言する事に問題を感じないのは相変わらずなのね。
まぁ、こんな女の子が護衛団相手に同じ事言っても、本気にされず終わるのがオチなんでしょうけど。
受付嬢のこの思いは確実に正解と言えた。
「社長に会いに来たんでしょ?
今現場を歩き回ってるから呼んできてあげる。
応接室で待ってて。」
「はいはーい。」
応接室に通され、ソファーにドプンと沈む様に座り、差し出されたコーヒーとクッキーに目を爛々と輝かせる。
「さすがあたしの好みがよく分かってるわぁー!」
そしてクッキーが食べ終わる頃に、ドカドカと足音が聞こえてきたかと思うや、応接室の扉が外れんばかりに勢いよく開いた。
「こぉのクソガキがぁー!
ようやく来やがったな、オイ!!」
「お、マティスのおっちゃん久しぶりー!」
見た目人間の、外見年齢40~50代の社長は、久しぶりと言われて血管がブチンと切れた気がした。
「俺が何で怒っているか分かるよなあ!?」
「何だっけ?
あたし良い事しかしてないから何も思い付かないんだけど??」
「・・・盗賊のしでかす良い事ってなんだよ?」
「極悪貴族から財宝ガッポリ盗んで贅沢三昧する事だよ!」
要は義賊って言いたいのか、このガキは。
マティスは、フゥーと大きく息をついて一言。
「前回この国に来た時、高級住宅街の一軒から金貨だけでなくチーズも盗んだろ?
あれを勝手にうちの地下室に保管(入れ)やがったおかげでなあ、鼠が大量に来やがったんだ!!
うち(生地工房)にとって、鼠は最強の害獣なんだよ!!!
始末にどんだけ苦労したと思ってやがる!!!!」
「あー・・・、あははははー!
そういやそうだったっけー!!」
今の笑い声は、誰が聞いても思い出し笑い。
栗鼠は冬場に備えて餌を隠しても忘れてほったらかしにする事があるというが、ベティーもその類らしかった。
用意していた耳栓をするのも忘れ、睨み目線を避けるように努力中。
「笑い事じゃねえんだよ、この馬鹿タレ!!」
「ゴメンゴメン、ここはあたしの可愛い顔とコレで許してよ。」
ベティーはとりあえず謝りながら、テーブルにドン!と金貨の入った袋を差し出す。
「迷惑料のつもりかあ?」
フン、と鼻息荒げながら受け取って中身を確認すると、予想しなかった量に一瞬言葉を失う。
「・・・おい、どっからこんな大金・・・!」
「あたしがマハラティーニで稼いだ一部だよ、凄いっしょ。」
ベティーは嬉々としながら本題に入る。
「で、そっちの話はおいといて、盗賊ギルド幹部のマティス様にお願いがあるんだけどぉ。
もちろん聞いてくれるよね?」
鼠の件をそっちの話においとかれてイラッときたが、こんな大量の金貨を受け取った後に言われたら、文句も言えねえし簡単には引き下がれねえ。
バーバラの婆ちゃんから杖の件は聞いていたが、それか?
だったらいつも通り勝手に持っていきゃいいだろうが。
「・・・お願いってな何だ?」
するとベティーはニンマリして、あの一文を語り出す。
「昼の顔と夜の顔。
同じ人物でも時が変われば姿も変わる。
魔も然り。
月の満ち欠けは時の門番。
満ちた時、真の姿を解放す。」
「ああ!?マストの宝物庫に用があんのかよ。」
今言ったのはフェイクじゃねえ本物の宝物庫の方だ。
なるほどな。
婆さん、一応用心して警備の強い宝物庫使ってたか。
「・・・満月は明日の夜だぞ、そん時でいいか?」
「もちろんいいよー。」
明日の夜、いよいよ本物の杖が姿を見せる。
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