第12話(2)
将を射んとする者はまず馬を射よってやつかしら。
直接貴族を口説かず、その息子たちから声掛けして下地作りって考えてるなら、本当に人間みたいな性格してるわ。
だけど、肝心の息子たちがブツブツ文句言ってるって事は・・・印象悪そうよね。
そんな状態で息子の父親と繋がるって、どう頑張っても無理でしょ。
「うーん、今回はアテが外れたかなあ。」
当面はロバスさんの方に期待するしかないのかしら。
そのロバスと言えば、寺院とは馴染みがないのかと思いきや
「あ、ロバスさん、こんにちは。」
と若い僧侶たちから気さくに声を掛けられていた。
ロバスはここでよく傷薬や毒消しなどのポーションを購入しているので、実は常連さんだったりする。
だから
「あれ?この前買ったばかりですよね?」
と言われても不思議ではなかった。
「実は皆さんに少し聞きたい事がありまして。
それは・・・。」
後にロバスと合流したケイトはその話を聞いてガックリとうなだれる。
「あたしがアリサから聞いた内容と同じかあ。」
「ちなみに当のハイエルフ司祭ですが、寺院での聞き取りは終わったとの事でした。
帰国は明後日の予定だそうです。」
「明後日?
今日と明日って何かあるの?」
「城下町の観光だそうで。」
「・・・マジで?」
それでいいのか、ハイエルフの司祭さん。
酒場の梯子といい観光といい、そっちが本命の用事に聞こえてしまうのはあたしだけ?
でもまぁそんなんじゃ
「付き合わされた僧侶たちがグチりたくなるのも分かる気がするわ。」
ロバスはそのケイトの声にピンとくる。
「・・・グチらせるのが目的だったとしたら?」
「え?どゆこと??」
「それだけ口が軽くなれば、家でペラペラ喋っちゃいますよね。
付き合わされた若い僧侶たちは上級貴族の息子たちなので、他の僧侶たちと違って寺院の宿舎ではなく、自宅から通勤しているはずです。
親の耳元にはすぐ届くと思いませんか?」
!
「そうか・・・情報を流すだけなら親密になる必要なんてない。
自然と耳に入る状況さえ作ってしまえば・・・!」
「ですが、盗賊ギルドの新アジトの情報を、司祭がどうやって入手していたのかという謎は残ります。」
「それなら酒場巡りじゃないかしら。
盗賊どもは酒好きが多いから、酔った勢いで余計な話をする馬鹿も中にはいるでしょ。
目の前に金を積まれて酒でも奢られたら、下っ端の盗賊は簡単に口元緩むわ。」
そこまで聞くと、ロバスはケイトに軽く会釈。
「ありがとうございます。
今仰った事の裏が全て取れれば、上級貴族側に落ち度は何も無かった事が証明出来ます。」
そう言われ、ケイトは一瞬キョトンとする。
「え?・・・あ、そういう事か。
ロバスとトレーシーの仕事って、貴族側に不正がないか調べてたのね。」
「はい。
もし貴族が盗賊から見返りを貰うような事をしていれば一大事ですから。」
「じゃ、ロバスさんとの共同作業はここまでって事ね。」
するとロバスはニコリと笑みを見せ
「一旦わかれますが、こちらの仕事が片付きましたら、今度は本格的にケイトさんの仕事をお手伝い致しますよ。
最初に言ってました通り。」
あ、そういえば、そんなこと言われてたっけ・・・。
結局そうなるのねー。
ま、頭も切れそうだし、余計な事もしなさそうだし、変な目付寄越されるよりはよっぽどいいか。
それなら
「じゃ、再合流の前に一つ調べてほしいんだけど。」
「司祭が廻った酒場の情報ですよね、お任せ下さい。」
「あ、ありがと。」
話が早くて助かるわ。
「では、明日の昼にキルジョイズの酒場で。」
は?明日?
「たった一晩で大丈夫?」
「連れまわされた僧侶たちから、飲みに行った酒場は全て聞いています。
それに・・・。」
「それに?」
「夜の行動は、忍者の得意分野ですから。」
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