第12話(1)

 ヴェスターとスージーが王城を出た後。

「スージー殿のあの正直すぎる反応から察するに、敵側も同じなのは間違いなさそうですな。」

 室長が同じと語っているのは

「ええ、敵側も魔道具に関する知識が衰えているのでしょう。

 杖を抜いた後にさっさと邪龍を解放できないでいるのが、何よりの証拠です。

 同じ仕様の杖を作れば簡単なのに。」

 というポーラの回答そのまんまであった。

 マハラティーニ国が魔道具製作大国と言われているのは、初級の冒険者向けに製作しているスクロール(巻物)等を大量生産しているだけに過ぎない。

 しかしこれは・・・。

「杖の捜索を他国で行なえば、嫌でも技術の低さが露呈される事は国王も分かっていたはず。

 それでも敢えて幹部数人を送り込んできたというのは、本当に長男の王位継承だけが目的だったんでしょうかね?」

 ごもっともな室長の疑問。

「マハラティーニ国王の真意か・・・ケイトなら何か推理出来るかも・・・ね。」

 ポーラも今の状況に納得していないのか、どことなく怪訝な表情を浮かべていた。


 ハックシッ

「ケイト、風邪?」

 喫茶店アリサに来ていたケイトは、アリサからモンブランとコーヒーを受け取っていた。

「ううん、たぶん変な噂されてるだけだと思うわ。」

 ケイトが話を聞きたいというので、アリサは喫茶店内ではなく従業員部屋に通していた。

 向かいの椅子にアリサが座る。

「で、聞きたい事って?」

 ケイトはモンブランを一口食べて、

 んー、と言いながら、幸せー、な表情をしながら聞く。

「今来ている司祭ってどんな感じ?」

 そう聞かれ、アリサは少しキョトンとした。

「ついにケイトにも信心が芽生えたの?・・・って事は無いわよね。

 何かの事件絡み?」

「そ、残念ながら事件絡み。

 ポーラから直接のねー。」

 ケイトの語尾伸ばし声は、いやーな依頼を受けているとよく出る声だ。

 そのへんアリサはちゃんと分かっている。

 また厄介な仕事押し付けられちゃったのかしら。

「国からの依頼なの?

 ハイエルフの司祭だけど、特に怪しいとかそういう素振りは無かったよ。

 ・・・ちょっと気になるところはあったけど・・・。」

「気になるとこ?」

「うーん、なんかハイエルフらしくないって言うか、人間臭いって言うかね。

 なんとなくなんだけど。」

 人間臭いか・・・。

 人間の貴族と繋がるなら、そんな性格の方が相性良いでしょうね。

 聞くだけ聞くか。

「その司祭って、寺院以外にどこか立ち寄ってたりする?」

 するとアリサは即答で

「そう、それよ。」

 と吐き出すように言った。

「それって?」

「に・ん・げ・ん・く・さ・さ!

 ハイエルフなのに庶民の酒場数件を梯子するのが好きみたい。

 うちの若い僧侶が数人付き合わされてブツブツ文句言ってたわ。」

 あ、キルジョイズの酒場でギルが言ってたアレか。

「ちなみに、それに付き合わされた貴族っていたのかな?」

「貴族?

 あの性格で貴族と縁があるなんて思えないけど・・・あ!」

「何か気付いた?」

「うん・・・ケイトにそう聞かれたからだけど、なんで気付かなかったんだろ。

 その付き合わされている若い僧侶たち・・・

 正確には3人なんだけど、皆、上級貴族区域出のボンボンよ。」

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