第11話(3)
王城から、4つの班編成で杖の捜索に出向こうとする中、ケイトの父ヴェスターとハイエルフのスージーは室長に呼び止められていた。
「どうぞこちらへ。」
言われるがままついていった先は王宮魔法陣の塔。
昇降機に乗り、4階へと昇っていく。
辿り着いた部屋には、スージーが目を剥く妖艶極まりない美女ポーラが待っていた。
これが人間のプロポーションなの?
スリムを美とする私たちとは対極の存在だわ。
種族柄、特に羨ましいと思ってはいないようで、ただ単に驚愕しているだけらしい。
ポーラはにこやかに
「スージー殿、よくいらっしゃいました。
スージー殿から事前に頂きました文書の内容は、私も拝見しております。」
と、どこか意味ありげに語った。
しかしスージーからしてみれば、先ほど部屋で改めて皆に語った内容なので、ポーラの声色をどこかおかしく思う事は無いようである。
杖の特徴も分かる限り記載したが、それについてだって捜索に出向く直前に皆に話して聞かせていた。
文書の内容など、特に隠すものでもない。
スージーが真に驚愕したのは、ポーラの次の行動だ。
「では、こちらを御覧下さい。」
「え・・・ええーっ!!!」
礼儀を忘れた様な大声が出たが、そんな事はどうでもよくなっている。
まさか・・・あの書いた特徴だけでこれを!?
この国の西部国境から送った書簡だけど、私たちが城下町に辿り着くまでのわずかな時間でこれを作ったというの!?
ポーラの手元には、ケイトの妹キャサリンが作った大きな杖。
それも急造したレプリカとは思えぬ様な、凄まじい完成度を秘めていた。
知らぬ者が手に取れば、本物だと言い切ってしまいそうなほどに。
「これが・・・これがレプリカだと言うのですか!?」
「作った本人曰く、とりあえず作ってみた程度の出来栄えだそうです。
こちらから改めて製作費と原材料を支払いましたので、数日中にはこれを超える杖が出来上がりますよ。」
「は・・・はい・・・。」
スージーにしてみれば耳を疑いたくなるレベル。
しかしいくら耳で疑っても、現物を見ている目は全ての疑いをブッ飛ばす。
そして改めて痛感した。
ポーラはスージーの思いを見透かしてか、代弁する様に語る。
「やはりマハラティーニ国の魔道具製造技術は衰退しているのですね。」
「・・・何故、そう思います?」
「簡単な理由です。
杖が無いなら作ればいい。
それが出来ない時点で明白です。」
「・・・!」
「ハイエルフと違い、短命な人間は貪欲です。
短い年月の中で、常に進化を求め続けます。
それは技術革新についても例外ではありません。
長命種族は進化に対して疎くなるとお聞きしますが、その通りだったようですね。
隠密に杖を捜索したい理由の一つに、技術衰退の隠蔽も入っていたのではないですか?」
「・・・その通りです。
いつもの生活、いつも同じ物を作って終わる日々。
ある意味平和なのですが、安寧な暮らしに胡坐をかいた代償かもしれません。
私の部下にも愚痴をこぼした者がいるほどです。」
うつむきかげんの体制になっているスージーの正面にポーラが近寄る。
ポーラの巨乳が目前に現れ、思わずビクリとした。
そしてポーラが囁く様に口を開く。
「ご提案があります。
邪龍ラハブを解放してみてはいかがでしょう?」
語られた内容に、スージーは絶句した。
「・・・本気で言ってるの?」
「杖の上部に配置された宝石の位置と数は、解封同意体と呼ばれる一昔前の製造手法で、封印と解放の2つの役割を担います。
この事から、杖は封印だけでなく解放にも必要な物であると容易に推測出来ます。」
「一昔前の?」
「ハイエルフから見れば近年でしょうが、我々人間から見ればそうなります。
今の時代、一つの杖に7個も宝石を使うなんてコストのかかる製造は行いません。」
「何を言っているの?
それと邪龍の解放と、どう関係が・・・。」
その声にポーラは妖艶な笑みを隠さず
「今の時代の力というものをお見せしましょう。」
「は?」
「邪教集団の目の前で邪龍を解放し、今の力で完膚なきまでに叩きのめして見せるのです。
一昔前の封印に未だに縛られている邪龍など敵ではありません。
・・・願わくば、邪龍が封印されているフリをしていて、絶大な力を持っている事を期待したいですわね。」
この国の人間は、バトルジャンキー(戦闘狂)の集まりなの?
龍の力なんて、国一つを滅ぼすほどのものなのよ。
「申し訳ないけど、その提案は同意出来ないわ。
邪龍の復活を推奨したら、私は確実に裏切り者になってしまう。
本物の杖を見つけ邪龍を封印する事が、ここに来ている我らの最優先事項です。」
・・・少し揺さぶりをかけてみたけどブレないわね。
まあ半分以上は本音だったけど。
スージーが裏切り者という線は、無しと見ていいかしら。
「分かりました。
では完成品の杖が届きましたら、万が一の為の予備として貴女が持って行って下さい。」
「え!?しかしそれは・・・宜しいのですか?」
「はい、我らの女王が仰っていたでしょう?
後ほどそれなりの対価は頂くと。」
杖の捜索だけでなく、代替品の無償提供まで。
私たち、どんだけ凄い対価を請求されるのかしら。
「・・・では、宜しくお願い致します。」
改めて畏怖を感じていたスージーだったが、この件が解決する頃には、畏怖を通り越して恐怖を感じる事になる。
ほぼ確実に。
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