第2話(2)
そもそも、壊滅したナンバー3の盗賊ギルド“セイル”が復活するなどという情報はどこから流れたのか。
答えは単純、盗賊どもが直接流していた。
4つの盗賊ギルドはいがみ合っているわけではなく、管轄区域を明確化して1つの巨大な組織として成り立っているのだと、国に見せつける為に。
あわよくば世界に知らしめる良い機会だと捉えているのかもしれない。
「厄介な組織よね。
1つ潰れたのを利用して、再編する情報をあからさまに流し、国に対して威圧する。
盗賊ギルドにも頭の切れる者がいるという事かしら。」
厄介な話をしているはずなのに、エレナ女王の声色は明るかった。
脇にいた室長が横目で女王をチラ見しながらボソリと一言。
「・・・何か良からぬ事をお考えで?」
声に出しながらも室長は、フムと1つ思い至った。
良からぬ事ばかり考えるのが女王の本質であるような・・・。
その思いが顔に出てしまったのか、女王はギロリと睨み
「室長も良からぬ事を考えていないかしら?」
と口をとがらせ、空のカップを室長の目の前に置いた。
室長がコーヒーを注ぐ中、女王は呟くように語りだす。
「わざわざ再編するという話を流してくれたんですもの。
それに見合った動きをしてあげるのが礼儀というものでしょう?
・・・強いて言えば、王城内の情報の出処が一番気になるところかしら。
“幻惑の陣”のイリスからは、既に王城区域の貴族居住区域で話が聞こえていたと報告があったわ。
それが事実なら、貴族どもの中で盗賊ギルドと繋がりを持ち、甘い蜜を吸っている下種がいる可能性が高い。」
少々強引な解釈に聞こえた室長であったが、可能性という域に入った話である事は否定出来なかった。
「・・・それで、その対策をどうするか考えていたのですか。
参謀長イルハンか軍師ラグのどちらかに任せてもよいのでは。」
「彼らは騎士団の参謀よ。
城下町なら護衛団の管轄でしょう。」
王城区域・・・護衛団・・・まさか。
「御庭番を動かすおつもりで?」
王宮護衛団王城区域班、通称“御庭番”。
蟲毒の事件の際にケイトの傍に付いたフィルも御庭番だった。
あの手の化け物クラスの実力者どもを本格的に動かすつもりなのだろうか。
女王は不敵な笑みを浮かべながら注がれたコーヒーを口にして一息つく。
「ロバスに動いてもらいます。
あと、サポート役としてトレーシーを付けましょう。」
!
ロバスは序列4位の忍者。
無慈悲で無敵な暗殺ぶりから“王城の魔人”という二つ名を持った猛者だ。
トレーシーは序列6位だが、あの南国出身の美女は正真正銘の魔女。
「・・・本気でその二人を動かすので?」
「もちろんよ。
闇社会の者たちにとって、少しは国の力を知る良い機会になるでしょう。」
・・・あの二人に関わった敵が生きていたためしは無かったと思うのだが・・・。
さて、良い機会と言えるのだろうか。
話していると、コンコンと扉がノックされる。
「入りたまえ。」
室長が声を掛けると、
「失礼します。」
と言って入ってきたのは、ケイトの父ヴェスターだった。
室長が軽く肩を落とす。
「なんだ、ヴェスターか。」
「なんだはないでしょう、なんだは。」
言いながらヴェスターは室長に文を渡す。
「これは?」
「先ほど西部国境警備の第4軍から届いた伝書鳩の文書です。
急ぎ、ご確認を。」
室長が黙読した後、何も言わず女王に手渡した。
女王は読んだ直後に声を上げる。
「メリル宮廷魔法庁長官の極秘訪問・・・!?
しかも、この文面の内容は・・・!!」
フーッと、室長が大きく息を吐く。
「厄介事というのは、何故か重なるものですな。」
室長の声に、ヴェスターは小首をかしげる。
「厄介事とは?」
「盗賊ギルド“セイル”復活の話だよ。
今その対策を語っていたばかりだったのだが・・・。」
「重なり過ぎていませんか?」
「む?」
「大聖堂から司教たちの来訪、盗賊ギルド再編の動き、加えてマハラティーニ要人2人の訪問。
この文面の通りなら、間もなく南部国境警備からも文書が届くでしょう。」
「スージー魔法騎士団次席か・・・。
ハイエルフ主権のあの魔法国家で起こっているのがこの文面の通りなら、言うまでもなく非常事態。
・・・まさか盗賊どもの妙な動きは、これにも関わっているというのか?」
「まずはその文書の裏付けを進めるのが先決かと。」
ニコニコ顔のヴェスター言われ、室長は黙って頷くしかなかった。
毎度のことだが、もう少し真顔にならんのか、この男は。
女王は文書を室長に戻す。
「フィアナに渡して王宮魔法陣でこの件の指揮をとるように伝えて。
魔法国家の歴史の裏付けは“聖刻の陣”の長マサリナに。
要人2人との対談は“皇王の陣”の長サイラスに。
この文書の裏付けは“幻惑の陣”の長イリスに。
そして魔導師の杖の捜索は“破封の陣”の長ポーラに。
人員が足りない場合は“闇夜の陣”も動かし、
“星界の陣”で全体の動きを管理するように指示。」
「御意。
女王の謁見はいかがなさいますか。」
「メリルとスージーが望むなら行ないます。
但し、二人が出会わぬように気を配るようにね。
城内でもめ事を起こされては敵いませんから。」
「分かりました。」
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます