第9話(1)
王城前広場でバーバラがベレッタに語った話は、オリビアの話に通じる裏事情であった。
「当時冒険者だったあたしらは、あの魔法国家マハラティーニで貴族が依頼したという仕事を受けた。
不老長寿のハイエルフは、長命だからか権謀術数を好む輩など皆無に等しい。
だから何の疑いも無く引き受けちまったんだ。
王国東端にある一軒家の調査をね。
禁忌の召喚魔法陣を行使した可能性が高い。
その真偽を確かめ、もし本当なら魔法陣を使えなくなるようにしてほしいと。
解体に必要な技能の封魔術はあたしが、解魔術はメンバーの一人が習得していた。
だからあたしらのパーティーに白羽の矢が立ったんだと思ったよ。
そして行ってみれば、家の裏手に魔法陣と、その家に住んでいたであろうハイエルフの男の死体があった。
死後1日か2日だったかもしれん。
魔法陣は何かを封印する為のものらしく、召喚系でない事は分かったんだが、封印する要となる杖が抜かれて男の傍に落ちていたんだ。
その杖を仲間の一人が拾った直後、始まったんだ。
家の物陰に隠れてあたしらの様子を見ていたんだろう。
恐らくあの杖には、ハイエルフの者では魔法陣の外に持ち出せない特殊な魔力がかかっていたのかもしれない。
あいつらは杖が魔法陣の外に出てくるのを待っていたのさ。
問答無用で襲い掛かってきたよ。
杖にどんな秘密があるか知らんが、こいつらに渡すもんじゃないと思い、返り討ちにしてやろうとしたが甘かった。
腐っても長寿のハイエルフだ。
スペルユーザーはあたしらとは桁違いの魔力を持ち、いとも容易く仲間の3人を殺したよ。
残ったあたしら3人は必死になって王国の首都に戻ったが、そこで目にしたのはあたしらを犯罪者に仕立てた貼り紙だった。
外れの一軒家の男を殺したという殺人罪。
その男が保管していた杖を奪い取ったという窃盗罪。
禁忌の召喚魔法陣を使ったという国際法違反罪。
あたしにはシェイプ・チェンジ(変身)の魔法が使えたからね。
3人で変身し、マハラティーニの北にある隣国シンクラビアに逃げ出すのに成功し、そこから更に西にあるこの国に来たのさ。
国際法違反なんてレッテルも貼られた以上、表の世界で生きるのは難しい。
だからこの国出身のあたしら3人は、他国の盗賊ギルドの者だと偽って、この国の盗賊ギルドに潜り込む事にした。
仲間の3人を死に追いやった敵を討つ為に、ここで力を温存する事にしたのさ。
・・・なかなかそのチャンスが来ないまま、こんなババアになっちまったがね。」
聞けばかなり凄まじい内容だが、それでもベレッタに驚きの表情は無い。
そして哀れみの表情も無い。
大切なのは、これからの事に正面から立ち向かう事だ。
「事情はよく分かったよ。
最大限協力するから安心おし。
ところで盗賊ギルドに入ったのは、身を隠すだけでなく敵さんの情報を収集する為でもあったんだろ?
何か収穫はあったのかい。」
「先読みするように語るんじゃないよ!
ったく、まあ話しやすいからいいけどねえ。
奴らは衣服のどこかに紋章を縫い付けている。」
「紋章?」
「先に言った封印目的の魔法陣。
邪龍ラハブを封印していた魔法陣らしくてね、その邪龍を崇拝しているっていう邪教集団ラハブの紋章だよ。
下っ端の邪教徒は簡単に分かるらしいが、幹部クラスの信者となると特殊な糸で縫われていて見分けがつかないらしい。」
「・・・つまり、仕事の依頼主だったハイエルフの貴族は、邪教徒の幹部って可能性が高いね。」
バーバラは大きく首を縦に振った。
「ああ、まず間違いないよ。
そしてそいつが、あたしらの仲間3人を殺した首謀者だ!」
「あたしとバーバラの仕事は首謀者探しだね。
で、ケイトには何をさせるんだい?」
「先日、盗賊ギルド“セイル”の大半を壊滅したのってケイトなんだろ?」
「ああ、ケイトの仕事の件で半ば成り行きだったみたいだけどね。」
「その続きを頼みたい。」
「続き?」
「盗賊ギルドってのはね、一つの国に必ず4つ設置する古い決まりがあるらしいんだ。
窃盗しすぎないように、程々の基準を設けて互いを監視する目的でね。」
「・・・資源(盗み場所)確保の為、かい。」
「だから、セイルの人材を確保する為に他国から盗賊ギルドの者たちが入ってきているんだが、タイミングが気になってね。」
「タイミング?」
「杖がこの国にあるっていう情報がマハラティーニ国に漏れたって事だよ!
仲間はこの年になって今更裏切る気なんか無い。
盗賊ギルドにいながら金で動くタイプじゃないしね。
どこから漏れたのか、それを探ってほしいんだ。」
この依頼内容にベレッタはニヤリとした。
占いの結果にピタリとはまったね。
王城の魔人って二つ名のロバスがなんでケイトと一緒に行動するのか、これではっきりと見えたよ。
盗賊ギルド“セイル”のタイミングはおそらく囮。
もう一つタイミングがあるんだが、バーバラは気付いてないのかい。
・・・ま、後でゆっくり教えてやるかねえ。
「任せな。
ケイトなら必ずやってくれるよ。」
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