第10話(1)
ケイトがとりあえず遅くなったお昼にしようと、キルジョイズの酒場に入ってカウンター席の左端に座った。
マスターのギルがそれに気付き、近付いてくる。
「よおケイト、いらっしゃい!」
「ピザトーストセットお願い。
飲み物はアイスコーヒーで。」
「あいよ!」
そしてすぐさま念話を開始。
『マスター、盗賊ギルドのセイルが再編されるって話聞いてる?』
『あー、俺も噂程度でだが小耳に挟んだよ。
まあ前みたいに酒場“セイル”なんて堂々と名前を表に出す事は無えと思うがな。
なかなか大胆な奴らだが、もうそんな事はしねえだろう。』
『前のアジトはこのロードストリート通りの裏手にある居酒屋群の一つだったわ。
似たような場所に居を構えるなんてあり得ない。
どこか、他国から来た者たちが集っているような場所ってないかな?』
『うーん、普通に考えたら、ここ(酒場)みたいなとこか、冒険者ギルドか、寺院か。
って感じだと思うがなあ。』
『え、ちょっと待って、寺院?』
『他国の者でも、敬虔な信者なら真っ先に向かうとこだぞ。
まあ考えてみりゃ、盗賊には縁が無いとこだろうが。』
そういえば、マハラティーニにあるバージュ大聖堂から寺院に使者が来るって話があったような・・・。
盗賊とは無関係だと思うけど、時期が重なりすぎてるのは気になる。
『そういえばさ、バージュ大聖堂から寺院に使者が来るって聞いてたけど、あれっていつ来るんだろ?』
その問いと同時にピザトーストセットがドン!と出された。
「はい、お待ち!」
ピザトースト、サラダ、コンソメスープ、コーヒーの定番メニュー。
朝から昼まで注文OKで人気が高い軽食だ。
「どーもー。
じゃ、いただきまーす。」
ギルは、食べ始めたケイトを横目に
『大聖堂の使者ならとっくに来てたぞ。』
とボソリと念話した。
ケイトがピザトーストを口にしたまま少し硬直する。
『・・・マジで?
そんなすぐ来るような話だったっけ?』
『そこまでは知らんが、急遽早まったらしい。
この前寺院の僧侶が飯食いに来てボヤいてたよ。』
『そう・・・ありがと。』
バーバラは盗賊ギルドと言い切っていたけど、そうだという確信はあったのかしら?
もし盗賊どもが来ているタイミングだけで怪しいと判断しているなら、危ういわ。
私なら、盗賊どもの動きを隠れ蓑に行動する。
・・・ん?隠れ蓑?
まさか大聖堂の司祭が盗賊と繋がってるなんて事・・・。
最悪を想定するなら、考え過ぎとは言い切れない。
でも水と油みたいに混ざり合わない者たちが、簡単に繋がるなんて事あり得るかな?
想定の域を出ないけど、もしそうなら彼らを繋げたパイプ役の存在も考慮しなきゃ・・・。
・・・なんで杖1本の捜索依頼が、こんな厄介事に発展するのよ。
ポーラーっ!
毎度毎度厄介な仕事丸投げしてーっ!!
たまには楽な仕事寄越しなさいよーっ!!!
ブチギレそうな感情を抑えながら考え事をしている割に(いや、そのせいか?)食べるスピードは早く、最後にゴクゴクゴクと一気にアイスコーヒーを飲み干した。
お勘定して外に出、とりあえず喫茶アリサに向かう事にする。
大聖堂から来たという使者の情報を、アリサが知っていればすぐにでも欲しい。
と思っていたその時、
「この度はどうも。」
と聞き慣れた男の声が左耳から入ってくる。
「え、あ、ロバス・・・さん?」
黒づくめの仕事着ではなく普段着で来ていた。
周囲の視線を意識しての事だろう。
「歩きながらで構いません。
こちらで得ている情報をお話致します。」
合流するとは言っていたけど、もう来たの?
えらく早いわね。
「あ、はい・・・えっと、そちらのお仕事はもう大丈夫なんですか?」
そう言われロバスが、ああ、と言いたげな表情になる。
「ケイトさんの元に来たのは、先ほど言っていた応援などではありません。」
「え?」
「私とトレーシーで受けている仕事が、微妙にケイトさんの仕事に重なっている可能性がありましてね。
今のうちに情報を共有しておいた方が良いと判断されたのですよ。」
王城の魔人という二つ名に似合わない親切丁寧な口調は、どことなく父さんに似てるなと感じたケイトであった。
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