第10話(2)

 ロバスがケイトに語ったのは、貴族区域内に広まっている噂話だった。

「ここ最近で、盗賊ギルド“セイル”再編の話が出回っていますが、何故か城下町よりも早く情報が流れていたのです。」

「でも貴族区域っていっても、普段は地方の領主やってる貴族の別荘もあるでしょ。

 外からの出入りが少ないわけじゃないから、特に怪しく思う事は無いんじゃないかしら。」

「新規に設営するギルドの場所の情報が含まれていたとしても?」

 有り得ない話にケイトは耳を疑った。

「・・・なんですって?」

 以前の時も、酒場セイルなんて名前を隠しもせず使っていた盗賊どもだ。

 だが敢えてあからさまに名を見せる事で、

『まさかここが名前の通りの盗賊ギルドなわけないだろう』

 という誘導推察を目的としていれば説明はつく。

 しかし今の話のような、これから設営する場所の情報となると論外極まりない。

 まるで

『また潰してくれ』

 と暗に壊滅を望んでいるかのようだ。

「詳細な情報の出処は分からないの?」

「残念ながら。

 もしや4つの盗賊ギルドで真の意味での分断が起きて潰し合いを始めたのかとも思ったのですが、そうでもないようです。

 盗賊ギルドも闇組織とはいえ歴史が古い。

 4つのギルドで互いを監視するという慣習を安易に壊す理由はどこにも無いですから。」

「・・・てことは、盗賊ギルドに所属していないけど盗賊ギルドに詳しい人物が、わざわざ貴族区域に情報を流している?」

「結論を言うとそうなります。

 モグリの盗賊もいるという話は耳にしますが、だからといってその様な者が貴族やその使用人たちと簡単に繋がるとは到底思えません。」

「モグリの盗賊と貴族を繋いだパイプ役が誰かいる?」

「それもまた、結論の一つです。」

 そう言われ、ケイトがうーんと低く唸る。

「うーん、上手く推理出来ないなあー。

 ・・・もしかしたら、あたしたちが相手にしているのって、一人じゃないのかもね。」

「複数の人が、それぞれ個別に何かを企てているという事ですか?」

「うん、どう考えても単独犯とするには無理がありそう。

 まだまだ情報不足なのは確かね。

 ただパイプ役の存在っていうのが、こっちと似ているのは気になるけど。」

 そう、私が酒場で推理していた事と妙に似通っている。

 同じタイミングなだけに、偶然の一言では片付けられない気がするわ。

「似ている、とは?」

 今度はケイトが自分の仕事の話を聞かせた。

 ただ話したのはポーラから依頼された杖の捜索が主軸で、バーバラの事はおくびにも出さない。

 そこに大聖堂の司祭の話を付け加える。

 急遽日程を早めて来訪していた事も話し、調べる価値はあると。

 流石に少し無理があるかなとも思ったが、ロバスは深く頷いていた。

「貴族がどうやって情報をと思っていたのですが、元々パイプ(繋がり)が太い寺院や大聖堂の者と仮定すれば納得出来ます。」

 あれ?ちょっと無理がある話かなと思ったんだけど、安易に肯定しちゃったな。

 まあ確かにそう言われればそうだけど。

「やっぱりケイトさんの仕事と繋がっていそうですね。

 では私はこのままケイトさんと行動を共にしましょう。」

「え?」

「御庭番の私が同行していれば、多少は無理な要求もイケると思いますよ。」

「あ、そう・・・ですね。

 じゃあ宜しくお願いします。」

「ケイトさんの話ですと、今から向かう先はソルドバージュ寺院ですか。」

「あ、いえ、喫茶店アリサです。

 店主のアリサはハイ・プリーステス(高僧)ですから、寺院に来ている司祭の情報が得られるんじゃないかと思って。」

「なるほど。

 では喫茶店アリサはケイトさんにお任せして、私は寺院に行ってきます。」

「ええ?

 ・・・分かりました。お願いします。」

 忍者に信仰なんて聞いたことないけど、大丈夫なのかしら。

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