第9話(3)

 ケイトは、盗賊ベティーに乗合馬車の停留所の一つへと案内されていた。

 しかし、というか当然ながら老婆バーバラの姿は無い。

「げ、婆ちゃんいないよ。」

「やっぱり動いていた、か。」

 それにしても、シーズン・ホスピタル“秋の塔”の裏にある停留所とはね。

 今回は病院が絡む事は無いと思うけど、あまり良い気のしないとこだわ。

 ・・・ん?これって?

 ケイトはベンチに置いてあった一つの栞に気付く。

「王立図書館の栞・・・?」

 王立図書館は、セレネ魔法学院で書物を一般貸出している巨大な図書館の事を指す。

 借りると和紙の栞を一つサービスしてくれるのだが、様々な風景が描かれており評判が良い。

 これには王城前広場の公園を緑豊かに描いていた。

 あ、メッセージか、これ。

「ベティー、王城前広場に行くわよ。

 たぶんそこにいるわ。」

 そう言うケイトに、ベティーはゲッとなる。

「あーごめん、あたしは無理だわ。

 なんか今、あの辺って警備が強化されてんだよねー。

 あたしみたいに超有名な盗賊ともなっちゃうと、捕まりに行くようなもんだからさ。」

 御庭番のロバスやトレーシーは、その辺スルーしてたから大丈夫だと思うんだけどな。

 まあそう言うなら仕方ないか。

「そっか、じゃ一人で行ってくる。

 そのお婆ちゃんの名前は?」

「バーバラだよ。」

「ありがと。」

 とりあえず王城前広場ということで、いつもの場所へと足を運ぶ。


「・・・というわけでここに来たんだけど、まさかお婆ちゃんの知り合いだとは思わなかったわ。」

 ベレッタの占い所に来てみれば、バーバラとお茶会している姿が見えていた。

 が、バーバラは話せるだけ話した後なのか、少しお疲れ気味に見える。

「大丈夫・・・ですか?」

 するとバーバラの代わりにベレッタが

「大丈夫だよ。

 ちょっと、じんも・・・いや話に夢中になっただけさね。」

 今、尋問って言おうとしたよね?

 洗いざらい話すはめになったってのが、この空気だけで分かるわ。

「それはお疲れ様です。

 バーバラさんですよね?

 ベティーから話を聞いてきました。

 あの絵画のギミックや料理本のヒントは面白かったです。」

 そう言われるとバーバラは途端に元気を取り戻す。

「そうだろそうだろ。

 仕掛けはやっぱり面白いものでなくちゃね。

 あと、女性らしい仕掛けだっただろ?」

「はい!

 是非、私もご教授頂きたいです!」

 ケイトが目を爛々と輝かせているとベレッタに

「ケイト、あんまりこのババアを調子づかせない方が良いよ。

 罠仕掛けと悪巧みは天下一品だからね。

 それに、ご教授の点なら心配いらないよ。」

 そう言われ、すぐにピンとくる。

「もしかして、私に仕事の依頼を?

 それでその対価が術の教授?」

 ケイトのこの声にバーバラはパチパチと拍手。

「なるほど、ベレッタの孫娘なだけある、良い読みだ、その通りだよ。

 依頼はね、再編されようとしている盗賊ギルド“セイル”を調べてもらいたいんだ。

 この国に持ち込んだとある異国の杖の情報が、そこから漏れている可能性があってね。

 引き受けてくれるかい?」

「引き受けるのはいいですけど、肝心の杖は大丈夫なんですか?

 わざと盗ませましたよね?」

 するとバーバラは、おや、と少し驚いた表情を見せ

「よくあの状況だけでそこまで気付いたね。

 でも盗ませたのは、外観をそっくり模倣したニセ物だよ。

 そもそも直接手にした事など無い奴らが盗みに来てるんだ。

 本物とニセ物の区別なんてつかんだろ。

 アレにはマーカーを付けたからね。

 そっちはあたしとベレッタの魔獣で追跡する。」

 簡単にニセ物作ったって言ってるけど、てことはこのお婆ちゃん、キャサリンと同じ封魔術の技能持ちか。

「本物の杖はどうするんですか?」

「全て片が付いたら国に引き渡すよ。

 元々盗みたくて盗んだ品じゃない。

 あたしの依頼の中身はベレッタに話といたから、後でそっちから聞いとくれ。」

 ここまで聞くと、ケイトも意を決した表情になる。

「・・・分かりました。

 杖の情報の出処、必ず暴いてみせます。」

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