第4話(1)

 メリル宮廷魔法庁長官の極秘訪問。

 しかし極秘・・・とは言ってもガーディア国側が何も対応しないわけにもいかず、貴族用の馬車を用意していた。

 その結果、かなり目立った状態で城下町西門にご到着といった流れになる。

 当然、西門の辺りは

 なになに、あの豪華な馬車、どっから来たの?

 どこの貴族様? 

 どんな人が乗っているんだろ?

 といった好奇な目線がこれでもかと突き刺さる。

 ・・・どうしてこうなったのかしら?

 メリルが自身の正体を国境警備の騎士団に明かしたからなのは分かっている。

 事情を説明する為には明かさなければならなかった事も止む無しだった。

 だったんだけど、この熱視線の集中砲火はどうにかしたかった・・・。

 己の行動に、今更ながら後悔する。

 もはや極秘とは言い難いけど、スージーにバレなきゃ良しとするしかないわね。

 御車の者がメリルに声を掛ける。

「人目があり過ぎるので、急ぎ王城に向かいます。」

「お願いします。」

 目立つ馬車が走る。

 ロードストリートのような大通りではないにしても、馬車が行き交うくらいの道幅。

 石畳ではないがしっかりと押し固められた道は揺れが少なく、乗車している者にとってはかなり楽だ。

 メリルもようやく少し心が落ち着ける感じになる。

 そんな中、ふと馬車の窓から外を見ると、異様に目立つ長身男が目に入った。

 Tシャツを着ていても分かる隆々としたムキムキの筋肉。

 日焼けなのか元々浅黒い肌なのかも分からぬ艶やかに黒光りする肌。

 その者の左手には、およそ不釣り合いな女性向けのランチバスケットが1つ・・・。

 一瞬、目線が合いそうになったので、思わず隠れるように沈み込む。

 ・・・今のは、ナニ?

 あんな凄い筋肉の人間っているの・・・??

 再び窓を見ると、走行しているからだろうが彼の姿は見えなくなっていた。

「・・・疲れてるのかな、私・・・。

 神域の森を出るなんて久しぶりだもんなあ。」

 残念ながら現実の光景であった。

 そして、まさかこの男と後ほど出会う事になるなど、想像すらしていないメリルであった。


 その筋肉ムキムキ男は冒険者ギルドへと入っていった。

「おはようございます!」

 健康的な白い歯が輝いて見える。

 顔なじみなのか、冒険者たちも受付嬢たちもにこやかに

「おはよう!」

「おはようございます!」

 と負けずに明るい声で大きく返事。

 そして男は受付嬢にランチバッグを手渡した。

「妻に手渡して下さい。」

「はい、確かに受け取りました。」

 冒険者ギルドにとってはいつもの光景なのか、この男の存在に驚く者は一人としていない。

 驚くのは、いつもと対応が変わるのは、ここからだった。

 男が冒険者ギルドのカードを提示する。

「妻から持ってくるように言われていましたが、何かありましたか?」

 金等級のギルドカードを見せられ、受付嬢たちが『ええっ!?』と驚愕。

 カードを持ってくるように言われた。

 それは金等級ご指名の依頼がある事を指している。

「しょ、少々お待ち下さい。」

 受付嬢が慌てて上級者向けの依頼書を確認しだした。

 マスター、そんな依頼あるなら朝礼の時に言ってよ、もおーっ!

 ・・・って、どれの事だろ?

 上級者向けは、

 北東部、廃墟レイ=スの探索、

 西部、ダリエンソ山の迷宮探索、

 北部、ラマ砂漠の魔獣討伐、

 南部、森奥泉レビアの水採取、

 ・・・いつもの依頼しか見当たらな・・・あ!

「城下町、地下巨大回廊の事前調査、これですね!!

 ・・・いつの間にこんな回廊が発見されたんだろ?

 えっと、依頼者は・・・!」

 受付嬢の額から冷や汗が流れる。

「どうしました?」

「依頼者は王宮魔法陣“破封の陣”の長ポーラ様です・・・!」

 ポーラは王国で手出し厳禁の危険人物に挙げられている5人のうちの1人。

 色気全開の妖艶美女であるが、その名を聞いただけで皆後づ去りしてしまう。

 しかしこの男に至っては例外か

「ポーラさんの依頼ですか。

 分かりました、喜んで受けましょう!」

 意気揚々と申請・受諾書にミシュラン・マーク・レイバーとサインをして去っていった。


 現在はボディビル・ジム“ビューティフル”を経営するボディービルダー。

 そしてギルドマスター兼金等級冒険者シャディ・リアン・レイバーの夫。

 あらゆる格闘術を極めた格闘家として金等級になった強者だ。

 更に外観からは俄かに信じられないが、王国ではフランソワを上回るナンバー4の魔法使いでもある。


 ポーラがケイトに付かず地下巨大回廊の調査を行うのは、必ず何か関連性があるに違いない。

 蟲毒の饗宴の件で、冒険者カイルが解放した地下の巨大回廊サブウェイ。

 城下町を地下で一周するという超巨大な円形回廊は、今後の展開において一つの要点となる。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る