第3話(3)

 旧貿易倉庫群。

 「禁断の果実」の時はドールが調査に出向いてくれた所だ。

 ケイトが直接訪れる事は滅多にない。

 城下町北門手前の旧貿易倉庫群、ここから北西部の一般国民居住区、北東部の同居住区とシーズン・ホスピタル。 

 特に用の無い区域だし、病院のある方は用があっても行きたくなかった。

 こちらは何か見つけたからなのだろうか、護衛団の警備員の数が目立つ。

 知らない人が見れば、事件の一つもあったかのような雰囲気に気圧されるかも。

 すると、その集団の中から黒いドレスを着た場違いな雰囲気の美女が現れ、ケイトに近付く。

 ケイトの師ポーラと同程度の身長に同程度のナイスバディな肉体美。

 肌の白いポーラに対し、こちらは肌が浅黒いという違いはあるものの、ケイトは初めてポーラに匹敵するプロポーションを目の当たりにした。

 南国出身の女性かな。 

 にしても、ポーラといいこの人といい、何喰ったらこんな身体になるのよ。

「ケイトさんね、お待ちしてたわ。

 私はトレーシー。

 王宮護衛団王城区域班の一人よ。」

 !

 御庭番!

 ジンは確か全身黒ずくめの男と言っていた。

 という事は、最低でも御庭番2人がこの件に関与している事になる。

「あ、ケイトです、初めまして。

 あの、待っていたというのは・・・?」

「私ね、貴女の祖母ベレッタ様の占いと似たものが見れるの、夢で。」

「夢で?」

「ええ、私は夢魔術師。

 女王陛下からは、貴女とロバスをサポートするように言われているの。

 何かあれば遠慮なく言ってね。」

「は、はい・・・。」

 顔!顔が近いわよ!!

 こんな至近距離で同じセリフを男が言われたら、一瞬で骨抜きになるわ。

 気を取り直そう。

「えっと、こちらで何か見つけたんだけど、手掛かりが無くて困っているという状況だったりしませんか?」

 ケイトの声に、トレーシーは即座にケイトを抱きしめた。

 えええ、ちょっと!?

「凄いわ、ケイト!

 さすが王宮魔法陣のポーラとマサリナが認めただけあるわ!

 よくこちらの状況が一瞬で分かったわね!」

 フランソワ並みにボディタッチの激しいわー。

 なんであたしの周りって、こんな美女ばっかなの?

「酒場にいた護衛団の方に聞いたんです。

 たまにここの護衛団の人が来ていたって。

 それを聞けば、ここで何かを見つけたけど、手掛かりが無くて酒場に足を運んでいたんだろうなって思ったんですよ。」

「聞きしに勝る推理力ね、頼りにしてるわ。

 じゃあ行きましょ。」

「どこに?」

「ここで見つけたもののところに、ね。」

 ケイトはトレーシーに右手を握られ、半ば引きずられるかのように倉庫へと入っていくのかと思いきや、倉庫の裏手へと回る。

 倉庫裏手の脇に小さな小屋があり、扉には非常階段と書かれていた。

 錆は無くスムーズに開閉する事から、普段から使用していた可能性が高い。

 扉を開けると地下に降りる螺旋階段が見えた。

 底は辛うじて見える。

 地下2階まである感じかな。

「気を付けて降りてね。」

 トレーシーが先に降り、続いてケイトが降りる。

 地下1階の扉があるところで足を止め、扉を開けた。

 貿易倉庫が現役だった頃に使用していたと思われる、従業員部屋が並んだ廊下に立つ。

「この部屋よ。」

 トレーシーは、非常階段に一番近い部屋の扉を開けた。

 簡易ベッドと机と椅子が1つずつ。

 個室か。

 数人部屋の冒険者の宿に比べたら贅沢かもしれないわね。

 机の引き出しを見ても、特に何も入っていない。

 怪しいところは無いように見えるけど・・・んん?

 このベッド

「向きが北枕?」

 ケイトの声にトレーシーが拍手する。

「この部屋だけを見てよく気付いたわね。

 そう、この簡易ベッド、北枕の向きで固定されているのよ。

 普通ならあり得ないわ。」

 信心深い国民性は、方角というものを特に気にする傾向がある。

 花魔術や風水学などに見受けられる龍脈や気流と呼ばれるものに類似しているが、ここの国民は必ずと言っていいほど寝る方角を気にしていた。

 それなのに北枕の向きでベッドを床に固定して打ち付けているなんて・・・!

 考え込んでいると、黒ずくめの衣装の男が部屋に入ってきた。

「ああ、貴女がケイト殿ですか。

 私は王宮護衛団王城区域班のロバスといいます。

 以後、お見知りおきを。」

「あ!ど、どうも、ケイトです・・・。」

 ジンの言っていた男ね。

 気を付けてとか言われていたけど、衣装はともかく丁寧な口調で話す人ね。

 恐ろしい雰囲気なんてあまり感じないけどなあ。

 あ、そういえば。

「この倉庫って、地下2階まであるんですよね?」

「いや、私も確認しましたが、あの螺旋階段を降り切った先は地下下水道への入り口があるだけでした。

 この部屋の下も魔力感知で確認してもらいましたが空間はありません。」

「そうですか・・・。」

 てことは、あの酒場で見た暗号はここで使うわけじゃなさそうね。

 かと言って他に手掛かりみたいなのも・・・。

 !

 ケイトが部屋の壁の色を見て気付く。

「ここにポスターか何か貼ってありませんでした?」

 言われてロバスが、ああと言いながら

「何かあるかと思って剥がしたんです。

 待っていて下さい、今持ってきます。」

 さっきもポスターだった。

 もしかしたら同じ人が仕組んだギミックかもしれない。

 壁の変色箇所を見るに、2枚あるはずだ。

 しかし、ロバスが手にしてきたのは1枚だけだった。

 晴れた朝日に向かって進む船の絵。

「・・・もう1枚ありませんでした?」

「え、ああ、壁の色を見てそう思ったんですね?

 残念ながら1枚だけです。

 もう1枚は古くなって捨てたのかもしません。」

 北枕、朝日・・・まさか。

「このポスター、どっちに貼ってありました?」

「・・・確か、枕の頭上だったかと。」

 それでは方角が成立しない。

 朝日は東から昇る。

「こっちに貼ってみます。

 何かあるかもしれません、用心して下さい。」

「そうか、方角!

 ・・・分かりました。」

 ケイトが、東側の壁、机の上側にある壁の色に合わせて貼り付けた。

 すると、大きな魔力が動いたように感じた。

 しかし見た目は何も変わらない。

 部屋は部屋のまま。

 それなら、もしかすると・・・!

「ロバスさん、部屋の扉をゆっくりと開けて下さい。」

「はい。」

 ロバスがゆっくりと扉を開けると、そこに廊下は無く、更に地下へと深く降りる階段が現れた。

 トレーシーがまたもケイトを抱きしめる。

「凄いわ、ケイト!

 こんなに早く新たな展開を見せてくれるなんて!!」

 うーっ!うーっ!!うーっ!!!

 デカい乳で窒息するっつーの!!!!

 どうにかトレーシーから離れると、ケイトは荒い息を吐いた。

 し、死ぬかと思ったわ・・・!

「・・・く、空間転移のギミックですね。

 この先は貿易倉庫の地下ではないです。

 行きますか?」

 すると、ロバスは問答無用に扉を閉めた。

 あれ?

 更にポスターを剥がし、元の廊下に出れるようにする。

 あれれ、行かないの?

「その先がどうなっているのか未知の領域なので、食料を買ってきます。

 少しの間、待っていて下さい。」

「あ、はい、分かりました・・・。」


 当然と言えば当然の事だけど、えらい慎重派なのね。

 ロバスが去った後、トレーシーに問いかける。

「あのロバスって人、ちなみに序列は?」

「4位よ、ちなみに忍者。」

「4位で忍者!?」

「悪人に対して無慈悲な殺戮ぶりから“王城の魔人”なんて二つ名が付いているわ。」

 この前エルが言っていた。

 上位4人は桁外れの化け物揃いだと。

 だけど、衣装で忍者ってのはなんとなく理解出来るけど、あの丁寧な口調で無慈悲な殺戮って想像出来ないなー。

 と、人は見た目で判断出来ないという事は分かるんだけど、イマイチ納得出来ていないケイトなのであった。

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