第1話(3)
王城前広場で占い師を営んでいるケイトの祖母ベレッタは、若い女性を中心に有名だ。
預言ではないよと言われるも、ほぼ的中する先の世に、お客は期待と不安を同居させる。
「・・・おや、初老の男とは珍しい。」
比較的お客の少ないお昼時、初老の男性が一人やってきた。
身長は155くらいだろうか。
男性にしては小柄だが身なりが良く、下級貴族か商人の類かと感じてしまう。
ちなみにこの世界の人間の平均年齢は決して高くない。
不意に遭遇する魔物や盗賊などの奇襲で命を落とす事が珍しくない時代では、50代後半は悲しいかな初老と捉えられがちである。
まあ、見た目が若作りならまた違うかもしれないが。
「昼時に済まないね。
今後の私の行く末を視てほしいのだが。」
ベレッタは手にしていた最後の卵サンドイッチを口に放り込むと、ヨッコラショと言いながらゆっくり起き上がる。
「行く末とはまた大きく出たね。
今から老後暮らしの計画かい?」
「・・・ふむ、言い方が極端だったか。
今後一週間以内に、私がどうにかなるかを占ってほしい。」
「分かった、ならまずは目の前の椅子に座って両手を見せな。」
「ありがとう、宜しく頼む。」
手相占いか、と思ったが違う。
ベレッタはまずそのものを視ていた。
ポーションなどで上手く治しているが、随分と擦り傷の絶えない手。
足音を大きく立てずに歩く真摯な足取りとは不釣り合いな、職人系のゴツイ手先だ。
不釣り合いな能力を同居させているという事は、この男には表と裏、2つの顔を持つという可能性が高い事を示唆している。
厄介な人物がやってくるのは、ケイトの探偵業のケが移ったかねえ。
そう思いながらようやく占術を開始。
小さなテーブルに置いてある小さな壺から水が出て、初老の掌の上で大きな膜を作った。
するとホログラムのような立体的な映像が、映りだしては消えていく。
薄暗い地下室に、鍛冶場のような火と鉄の雰囲気。
この辺ではあまり見かけない、小人族の女性。
廊下に長く続く血痕。
黒い衣服を着た商人風の男。
そして装飾が施された豪華な錫杖。
ここで映像は終わった。
水の膜は再び水として壺に戻っていく。
「今見たものはあたしにはサッパリ分からない。
だがあんたには直接関わる重要な物事になるだろう。
血痕なんてものまで映っていた以上、悠長には考えない事だね。
死相は出ていないから命は大丈夫だと思うが、油断はしちゃあいけないよ。
ま、あたしから言えるのはこれだけかねえ。」
そこまで言ってベレッタが顔を上げ男を見ると、額から冷や汗が流れていた。
「・・・預言・・・ではないのか?」
ベレッタは軽く息を吐き
「ああいう映像を見せると皆揃ってそう言うがね、残念ながら占いだよ。
水鏡って言って、最もオーソドックスな占術の1つさ。
・・・運命は所詮己が決める事だからね、進む道先は何通りもあると思った方がいい。
今見たのは、最も高い可能性の道を1つ見せただけに過ぎないよ。」
「そうか・・・いや大変参考になった、ありがとう。」
そう言いながら男は席を立ち、懐から金貨を一枚差し出す。
「金貨!?」
「驚かずに受け取ってくれ。
それなりのモノをみせてくれた礼だ。
おかげで1つの指標が出来たよ。」
「分かった、有難く受け取っておくよ。
気を付けてな。」
男は頭を下げると、静かな足取りでこの場を去っていった。
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