第1話(2)

 マハラティーニから北東に位置するガーディアに赴くには、北のシンクラビアからガベラ山脈を経由するルート以外に、もう1つのルートがある。

 マハラティーニの国境東端まで伸びているガベラ山脈を少し南に迂回すれば、比較的平坦な谷間の山間道を使ってガーディア国境南端に到着出来るのだ。

 そう、つまりこちらが正規ルート。

 メリル宮廷魔法庁長官が無理をしてでも最短ルートのガベラ山脈越えをしたのには、当然理由があった。


 ガーディア国境南端の検問所には、マハラティーニの貴族が使う高級な馬車が3台止まっていた。

 馬車に掲げられている紋章は貴族の家紋と見て取れる。

 しかしその先頭馬車から降りてきたのは、青白い法衣をまとった長身美女の魔法使い。

 金髪に白い肌、大人びたクールな表情と尖った長い耳はハイエルフの中でも最低100年以上生きているタイプ。

 身の内に抑え込んでいるが、魔力量もかなりのものだ。

 彼女は出入国管理の検問所で名乗り、ガーディア国第3軍のジェイ将軍に面会を求めた。

「スージー魔法騎士団次席!?

 は、はい!

 すぐに将軍の居城へご案内致します!!」

 マハラティーニの魔法騎士団と宮廷魔法庁。

 この二大勢力の動きは、今後の事件の真相を知る一つの鍵となる。


 そんな西と南の国境が慌ただしい昼間。

 ケイトは冒険者ギルドでギルドマスターのシャディと会話していた。

「鉄仮面のジンが冒険者を引退!?

 ・・・なんで?」

「護衛団からのスカウトがあって、城下町西区に配属されるそうよ。

 以前から勧誘されていたみたいだけど。」

「あー、そうだったんだ。

 まあ絵に描いた生真面目だから、性に合うんじゃない?」

「あ、あとカイルたち6人の冒険者は城下町を出たわ。」

「へ?

 折角、銀等級になったのに?

 ギルド内でやっかみでもあったとか?」

「なわけないでしょ。

 こっちにはまた戻ってくるそうよ。

 ノスタンジアの財宝伝説に挑戦するって言ってたわ。

 ただ旅費等の資金にゆとりが欲しいから、ダリエンソの迷宮で金稼ぎしてから行くって話だけど。」

 ・・・あれ?

 西区の迷宮でも結構稼いでいたと思ったんだけどな。

「旅費ってそんなにかかるの?」

「遠いから、空港から飛空艇で行こうと思っているみたい。

 あれエコノミーでもいい値段するしね。

 それに財宝伝説に集中するなら他の依頼は受けにくいでしょ。

 そうなると数日分の宿泊代と食事代も考える必要があるってわけ。」

「・・・前々から思っていたけど、あのパーティってしっかりしてるわよねー。」

「冒険者初期の貧しい経験をしていればこそ、よ。」

「まあ、気持ちは分かるけど・・・。

 ・・・こんな話をする為に私を呼んだの?」

「まさか、ついでよ。

 関わった人たちのその後は気になるでしょ?」

「・・・まあまあ気になる程度かな。」

「相変わらず、クールね。

 ま、いいわ、本題は盗賊ギルドの動きよ。」

「盗賊ギルド?」

「貴女、ナンバー3のセイルって盗賊ギルドを潰したでしょ。

 セイルが再構成されるって情報が入ってきたの。」

「え、残り3つの勢力が拡大されるとかじゃなくて?」

「それは無いみたい。

 貴女なら簡単に返り討ち出来るでしょうけど、一応気をつけなさい。

 このタイミングで変な情報も入り込んでいるしね。」

「ご忠告ありがと。

 ちなみに変な情報って?」

「バージュ大聖堂から寺院に視察団が来るそうよ。

 アークデーモン騒ぎの直後だから、少し気になってね。」

「バージュ大聖堂って南のマハラティーニにある?

 遠路ご苦労様だこと。」

「ケイト、貴女他人事のように言ってるけど、こんなのに限って探偵絡みで首突っ込んでくるでしょ。

 相手が相手だから気に留めておきなさい。」

「今は特にそんな仕事は来ていないけど、一応気を付けておくわ。」


 残念ながら一応で済まないのがケイトであった。

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