第1話(1)
シャンテ=ムーン大陸は、西に帝国、東に巨大な12の国家が存在し、常に対立した緊張状態だ。
西の帝国に対抗すべく、12国家は連合となって自国の防衛維持に努めている。
だが連合だからといって、簡単に心を許せるわけではない。
12国家全ての国々が帝国に寝返る事の無いよう、また連合国同士で争いが起きないよう、互いが目付となり辛うじてある程度の平和が保たれていた。
12国家の中でも最大規模、つまり帝国に次ぐ大きさの国が、ケイトの暮らすガーディア国であった。
そして、その西にあるガベラ山脈の向こう側に、巨大国家シンクラビアとマハラティーニがある。
マハラティーニはシャンテ=ムーン大陸最大の魔法都市国家。
技能に関係なく誰でも魔法が扱える巻物(スクロール)の生産は世界一で、12国家の冒険者ギルド直営店に卸されていた。
ついでに、羊毛の産地としても有名である。
マハラティーニからガーディアに行くには、マハラティーニの北にあるシンクラビアを経由、そこから東にガベラ山脈の整備された山道を使う。
その山道を進むと、登り切ったところに国境の検問所があった。
山林地区ならではの魔獣が多く出没する危険地域である事から、シンクラビア、ガーディア両国の騎士団が協力して警備している。
ガーディア国では、騎士団の中では最強と言われている第4軍が管轄。
そんな検問所で入国手続きする女性は、第4軍のラルド将軍に面会を求めていた。
担当の受付女性が名を聞いて驚く。
「メリル宮廷魔法庁長官!?」
声を出され、メリルは慌てて受付の口を手で塞ぐ。
「声が大きいですよ!」
受付の女性はすみませんと言いながらシゲシゲとメリルを見つめた。
顔立ちが幼いスリムな銀髪の色白美少女といった感じだが、耳が大きく尖っている。
ハイエルフだ。
となると実年齢は測れない・・・わね。
まさかの3ケタかなあ。
「失礼致しました。
ラルド将軍の滞在する城まで馬車でお送り致します。
どうぞこちらへ。」
「ありがとう。」
・・・供の一人も付けずにたった一人で来るって事はお忍び?
でも将軍に面会希望って事は遊びじゃなくて仕事で来たって事よね。
受付の女性は頭の中で考え事をしながら馬車を手配し、一緒に乗って宿場町ラザンへと向かっていった。
宿場町ラザン。
ダリエンソ山の麓にあるこの町は、冒険者たちの活動拠点の一つとして名高い町だ。
城下町から外れた小さな町々の中では、比較的大きな町と言える。
宿も酒場も最高ランクには及ばないが、常に利用者が多く閑散期といった事がない。
その大きな理由に迷宮の存在がある。
ダリエンソ山の迷宮と呼ばれるこの迷宮は達成者皆無の迷宮として有名。
麓の洞窟入口から入るのだが、そこから地下深く潜るルートと山頂へ登るルートがあり、低級な冒険者を相手にしないほどの難易度であった。
そんな迷宮近くにある町だから食堂を兼ねた宿屋が多い。
2時間も東に歩けば城下町西門に着くのだが、この迷宮で稼ぐだけ稼いでから城下町に戻りたい為、この町に長く滞在する冒険者は多いという。
そんな町だから、当然武具店もある。
久しぶりに顔を見せた冒険者は、ナイスガイな店主に声を掛けられた。
「カイルか、噂は聞いているよ。
つい最近銀等級に昇格したってな、おめでとう。」
「あ、グラッグさん、どうもありがとうございます。」
グラッグ・ドーガン。
大陸最強の傭兵と呼ばれた男は、今はここ宿場町で武具の補修を主とした武具店を営んでいた。
騎士団からしょっちゅう教官になってくれないかとスカウトが来るのだが、引退したんだの一点張りで相手にしていない。
恐ろしいのはその筋肉。
着ているのがタンクトップ一枚なものだから尚更目立つのだが、無駄なく鍛え上げられた筋肉が簡単に見て取れる。
少しもたるんでいないところを見るに、今も鍛錬していると思えた。
趣味は筋トレだと言うが、さて、本当に引退したのだろうか。
「ダリエンソの迷宮に挑むのか?」
「あ、ちょっとノスタンジアに行こうと思っていまして。
旅費を稼ぐ程度に頑張ろうと思っています。」
「ノスタンジア?
あの湾岸都市国家の?
銀等級昇格記念に皆で旅行か?」
「いえ、あの都市で語られている財宝伝説を確かめたいんです。」
※
「本作“魔導士の杖”終了後、
『冒険者奇譚“湾岸都市の幽霊船”(仮タイトル)』
を掲載予定です。たぶん。
「なるほど、確かにあれをクリア出来れば更に名も挙がるだろうからな。
ま、無理しない程度に頑張りな。
・・・ああ、くれぐれも今は第3層に行くんじゃねえぞ。」
ダリエンソの迷宮は洞窟のような造りになっていて、緩やかな坂もある。
その為、はっきり1階2階と言える目安がつきにくく、入口からの一定の高さ・深さを基準に層という単位で表現していた。
だから階段を2つ上がれば第3層というわけではない。
「第3層で何かあったんですか?」
「どの辺か知らんが、有毒ガスが噴き出たって話だ。
第4軍の騎士団数名が現地調査しているらしい。」
「分かりました、気を付けます。」
話していると、武具店の前を馬車が通り過ぎていった。
「騎士団所有の馬車だな、何かあったか。」
「少し急ぎ気味の速さでしたね。」
「毒ガス騒ぎといい、変な事件の前触れじゃなきゃいいんだがな。」
元傭兵は杞憂で済む事を願っているが、さてどうなるか。
ただ間違いなく言えるのは、メリルの来訪は確実に一つの事件を運んでくるという事である。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます