第4話(3)

 城下町の地下にある巨大な下水道は、古い遺跡のようなもので地下水が大部分。

 だが、それなりに下水を流す役目も担っている。

 当然排泄物等もあるのだが、不思議と臭いは酷くない。

 その理由は魔物の存在。

 汚物を食べて生きる魔魚、甲殻類、蛭等のワーム、大型の鼠、鰐、蝙蝠と、それは数多くの魔物が蠢いていた。

 甲殻類や鰐の外皮は素材の中では高価な部類なので、中級クラスの冒険者が挑む事も珍しくない。

 昔は国でも調査していたので、ある程度の地図は出来上がっていたはずなのだが・・・。

 船が停泊しているここは、明らかに未踏エリアだった。

 ロバスは半ば呆然として眺め、トレーシーにいたっては興奮気味。

「凄いわケイト!

 大発見よ!!」

「そう・・・です・・・ね。」

 まさか・・・?

「この地下下水道って、南東部にある大河ウラジル川につながっているんですよね?」

「え、ええ、城下町を出て数キロ先の傾斜のある大地に水路の出口があるけど。

 でもここからはかなり距離があるわ。」

 帆船は風が無ければ走れない。

 ボートでそんな遠くまで帆船を引っ張り出していたのかしら。

 ま、あれこれ考える以前に、この面子では船を動かせない、か

「昔の海賊たちの名残なのかな・・・。

 とりあえず船内に何かあるか、確認しましょう。」

 ロバスがまず小さなボートから調べ、オール数本しかない事を確認。

 それから大きな帆船に跳躍して乗り込んだ。

 すぐにラダー(梯子)を見つけ、ガラガラと音を立てて降ろす。

 音を気にしないところを見るに、不審者は皆無らしい。

 先にケイトが昇り、続けてトレーシーが昇った。

 ロバスは、

「先行して船内を見てくるので、ここで待っていて下さい。」

 と言い、さっさと侵入していった。

 船のデッキ(甲板)は綺麗に磨かれていて、清潔感が保たれている。

 先ほど蝙蝠のフンがあってもおかしくないはず。

 つまり、これは今も誰かが定期的に来て掃除しているという事。

「海賊や盗賊って、実は綺麗好きなのかしら。」

「盗賊は知らないけど、海賊は綺麗好きって話は聞くわよ。

 海上で病原菌の感染は命取りだから、潔癖症なくらいに気を配っているってね。」

「あ、なるほど。」

 ここまで話していると、ロバスが船内から出てくる。

「罠はありませんでした。

 入って大丈夫です。」

「あ、はい、どうも。」

 船員の部屋が数部屋、調理室、会議室、船底部、と見て回るが特に怪しいものは無かった。

 というか、持ち出せるような小物は何一つ置いてなかった。

 まるで引っ越し業者が全て持ち出したかのような徹底ぶりを感じる。

 これにはロバスもトレーシーも訝し気に

「先を越されたか・・・。」

 と呟いていた。

「どういう事ですか?」

「御庭番の私たちが動いている理由。

 貴族の中に盗賊の甘い汁を吸っている者がいる可能性が浮上しましてね。

 それを調べる為に動いていたのですが、どうしても王城区域内の件だけに、内密に調査するのが難しいんですよ。」

「要は、情報がリークしていて、先を越されている可能性があると?」

「ええ。」

「でも、それならあの階段で見つけた青い鍵を放置しておくとは思えないです。」

「・・・そういえばそうですね。

 でも、ケイトさんが見つけた暗号が分からなければ、鍵の入手は難しいのでは?」

「あ、それもそうね。」

 単純に見つけたから、そこまで気にしなかったな。

 この鍵、早めに見つかったけど、実は重要な鍵なのかも。

「とにかく、船で何も得られないなら、地下水路の通路を行きましょう。

 黒き魔物ってのが気になりますけど、行くしかないでしょ。」

「そうですね、行きましょう。」


 ところが、通路はものの数メートルで行き止まりが見えていた。

 脇の地下水は壁に溶け込むように流れている。

「幻の壁!」

 しかし、歩いていける通路側の壁は本物。

 つまり、

「ボートでなきゃ、壁の向こう側には行けないって事なのね・・・!」

 明らかに変だ。

 あのポスターといい、この幻の壁といい、魔術的なギミックが多すぎる。

 これを盗賊ギルドで仕組んだ?

 いや無いわ、絶対。

 ポーラめぇー、あたしにまだ何か隠してる事あるわ、絶対。

 機密事項は秘密のまま、あたしに丸投げしたでしょ!

 と吠えたかったが、外野がいるのでグッと我慢。

「・・・一旦、戻りましょう。

 午後イチまでに、あたしの妹を連れてきます。」

「キャサリンちゃんを?」

「キャサリンは精霊魔法が使えますから、風でボートを操船してもらいます。」

「風で?」

「黒き魔物というのが気になります。

 地下下水道の主ではないと思いますが、強い魔物で複数体出現した時、両手で操船していたら対応が遅れますから。」


 地下下水道の主というのは、龍の亜種のような存在と言われている。

 その姿を見た者はごく僅かだが、勝てた者は皆無。

 あれに手を出す事は死を意味するとまで畏怖された存在だ。

 そんな有名な存在だけに、皆で主と表現している。

 間違っても黒き魔物だなどという呼び名は用いない。

 そしてこんな魔物の存在は聞いた事がない。


 ケイトは、一つの推測を立てていた。


 もし盗賊ギルドに凄腕の魔法使いがいるとすれば・・・。

 今までのギミックの存在にも納得がいく。

 そして黒き魔物とは、その魔法使いの使い魔と推測出来る。

 黒き魔物の事を警告していた貼り紙は、侵入してきた部外者にむけたものかもしれない。

 嫌な予感しかしないわ。


 ・・・それならこっちも万全の状態を作らないとね。

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