第8話(2)

 不老長寿のハイエルフたちの話、ではあるが話自体は数十年前程度のものであった。

 人間のバーバラも関わっている件だけに、間違っても100年単位でない事は確実である。


 その話とは、ハイエルフ王ご子息の長男が、次期国王に第一候補として表明された事から始まった。


 実に自然な流れであるのに、長命故の諍いが生じる。

 現国王の派閥による、長男反対派の者たちの存在だ。

 長男は内気で大人しく引っ込み思案。

 そんな性格なものだから社交的とは呼べず、派閥の貴族たちから見れば不安を覚えて当然と言えた。

『長男は周囲に溶け込んでいない。

 まだ候補表明は早すぎる。』

『撤回を求む。』

『現国王の続投を。』

 ただハイエルフの王国は、長男が100歳を迎えた時、国王が正式に第一候補を表明するのが慣わし。

 古くからの決まり事を簡単に破るわけにもいかないのは、反対派も理解している。

 そこで現国王は長男を周囲に認めさせる為、驚きの行動を取った。


『邪龍を封印していた杖を見つけ出して長男に渡し、長男に邪龍を倒してもらう。』


 国王の無茶ぶりや事後報告はいつもの事だが、さすがにこれには皆、蒼白と化す。

 それに、封印していた?見つけ出して?とはどういう事だ?

『見つけ出して、とは?』

『先日、封印していた杖が抜き取られていたという報告を受けた。

 調査と警備を極秘で行っているが、今のところ邪龍の魔素が漏れ出ているという報告は無い。

 邪龍封印伝説の話が眉唾であったのなら、国宝級のあの杖を探し出し、息子に渡して次期国王の証建てとする。

 その際に邪龍を討伐したと話を盛れば、全て丸く収まろう。』


 そんなに上手くいくものだろうか?

 それにこの話、長男に対して都合の良い展開になりすぎてないか?



「我々もいくつか疑問を感じるところではありますが、国王からの勅令ということもあって、こうして杖を捜索している次第です。

 そしてつい最近、この国に杖があるという情報を諜報部が入手しました。

 ただ、何故我が国ではなくこの国に持ち込まれたのかという謎もありますが。」

 オリビアの声に女王は即答する。

「その話はこちらでも初耳です。

 ただ、我が国に無縁な杖である事は確かなので、見つけ次第、引き渡す事はお約束致します。

 もちろん貴女たちが城下町で杖を捜索する事も認めますわ。」

「ありがとうございます。

 では何故私たちの捜索時に護衛をお願いしたいのかと言いますと、ラハブと呼ばれている邪教集団から守って頂きたいのです。」

「邪教集団ラハブ?」

「邪龍の崇拝者たちと言った方が分かりやすいでしょうか。

 彼らは邪龍を崇め、邪龍の加護を得ようとしているのです。」

「彼らが杖を抜き取った・・・と?」

「それは分かりません。

 ですが、何らかの関りを持っているのは確かだと思います。

 ・・・その上で、一つお願いがあります。」

「なんでしょう?」

「ラハブがこの国に極秘潜入して、杖を捜索している可能性があります。

 彼らにとって、邪龍伝説が本物であった場合、杖があると再び封印されてしまうのを恐れ、真っ先に回収するはずだからです。

 だから、この町でそのような行動を取っているハイエルフを見つけましたら、迷わず殺して下さい。

 ラハブの情報が欲しいので生かしたいところですが、まずは杖の確保が最優先ですので。」


 同国の者を他国で殺すという覚悟をオリビアが正面から語ったのに対し、女王は

「貴女たちの覚悟と想いは受け取りました。

 全面的に協力致しましょう。

 但し、これに見合うだけの対価は頂きますよ。」

 と、冷ややかな笑みでオリビアを見つめた。

 オリビア含む4人がゴクリと生唾を飲み込む。

「・・・何か、御所望はございますか?」

「ええ、物ではなく、貴女たちにお願い事がね。

 それは全てが解決してからで良いわ。」

「・・・分かりました。

 ご期待に添えるかは分かりませんが、努力致します。」


 白銀の女帝の二つ名を持つ、この国の女王の願い事とは何なのか。

 考えるだけで鳥肌が立ちそうなオリビアたち4人であった。

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