第6話(2)

 夢が覚めてバー・ナイトメアが消え失せると、船が停泊している水路の手前に現れた。

 トレーシーとベティーの2人に、船から黒装束の男が近付く。

 頭巾を外しているので顔が見えていた。

「初めまして、そこのトレーシーと同じ御庭番のロバスといいます。」

「あ、ど、どうも、ベティーっていいます。」

 ・・・ん?御庭番のロバス??・・・あ!!!

「王城の魔人って二つ名の!?」

「おや、御存知でしたか。」

「うん、御存知っていうか、盗賊のあいだじゃ死語か禁句な二つ名だけど・・・あ、ヤバ。」

 ロバスはそう言われてもニコリとして

「構いませんよ、むしろ畏怖された二つ名となっているのでしたら重畳です。」

 ベティーは舌を出しながらポリポリと頭をかいた。

 悪気はないのだが、どうにも喋り過ぎる傾向があるらしい。

 トレーシーは軽く周囲を見渡し

「ケイトとキャサリンはまだ来ていないの?」

 ロバスが軽く頷く

「まだです。」

「仕方がないか、ベティー、お願い出来る?」

「宝物庫でしょ、オッケー。」

 あまりの軽いノリに、ロバスが少々不安になる。

「・・・お仲間の戦利品なのでは?」

 ベティーはニヤリとし

「昨日の仲間は今日だと敵だよ!

 いーの、いーの!!

 ついでにあたしも良さげなモノ頂いていこっかなーと思ってたから!!!」

「・・・そう・・・ですか。」

 小人族とは、皆、このような楽天的な性格なのでしょうかね。

 敵に回すと色んな意味で厄介になりそうです。

「じゃ、船に乗るよー!」

 ベティーはタラップ(渡り板)も使わずひとっ飛び。

 続けてロバスが同様に飛び移り、トレーシーはゆっくりとタラップを歩いてくる。

 助走もほとんど無く、この距離を飛び移りますか。

 いち盗賊にしておくのが勿体ないかもしれません。

 ベティーは甲板中央にある大きな操舵輪のところにいく。

 おや?

「ベティー殿は操船出来るのですか?」

「ベティーでいいよ!

 操船じゃなくて、この舵自体が宝物庫の鍵になってんの!

 ・・・あ、そだそだ。」

 言いながら、背負っていた小さな背負い袋を前に持ってきて中身をゴソゴソ。

 ゴソゴソ・・・あれ?・・・あれれ?

「どうしました?」

「メモってた暗証番号の紙、無くしちゃった・・・。」

 ベティーが青ざめる。

 どうやら演技ではないらしい。

 と、悩んでいるところにケイトが戻ってきた。

 だがキャサリンの姿がない。

「ごめんねー、うちの妹、ちょっと手が離せない状況だったから連れてこれなかったわ。」

 ・・・ん、あの娘だれ?

「メンバーが追加されたの?」

「急遽、ね。」

「あ、ベティーっていいます。」

「ケイトです・・・なんかあったの?

 顔色悪いけど。」

 トレーシーがお手上げなポーズをしながら

「この操舵輪が宝物庫を開ける鍵らしいんだけど、暗証番号書いた紙、無くしちゃったんだって。」

 操舵輪が鍵?・・・あ、もしかして酒場の!

「もしかして、右12、左23、右35?」

 それを聞いた途端ベティーが跳ね上がる。

「それ!それだあ!!」

 ベティーが操舵輪に手を掛けて右に回しだした。

 すると、カチ、カチ、とダイヤル式金庫を開錠する時のような音が聞こえる。

 数字は音の回数を指していたのだ。

 絵の中で沈んだ戦船は、右に左に右にと舵をきっていた。

 料理本の23ページだけ逆折りになっていたのが左を意味すれば、12ページと35ページの折り目は右の事に違いない。

 右35を回し終えると、ガラガラガラと音を立てて二本の大きな碇が巻き上げられていく。

 すると船の先端側、船尾側の行く手が壁で塞がった。

 そして残った水が、どこかに排水されていく。

 ベティーに言われて皆が底部に降り立つと、水路の壁に一つの頑丈な青黒い扉が見えていた。

 トレーシーが興奮を抑えきれずにまたもケイトに激しく抱きつく。

「凄いわ!

 さっきの暗号、いつの間に入手してたの!?」

「さ、酒場、の、ポスターと、料理本、にいいいいい!

 と、トレーシー!!」

「あ、やだごめんなさい、つい興奮しちゃって。」

 つい、で圧死してしまうわ。

「あとは、さっきロバスに見つけてもらった鍵で開ければいいのかしら。」

「そうですね、では試してみましょう・・・おや?」

「どうしたの?」

 ロバスが、鍵も使わずに扉を手前に開けた。

 思わずベティーが凝視する。

 なんで? あの婆ちゃん何も言ってなかったよ?


 そして扉の奥からは血の匂いがした。

 更に、黒い魔物が蠢いているのが、遠目でも見て取れた。

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