第7話(1)
手が離せず、ケイトに付いていけなかったキャサリンは王城前に来ていた。
ガラガラガラとリヤカーを引いて来たらしく、足取りはいつもより更に輪をかけてノンビリ調である。
正門脇にある受付所の女性はいつもの事なのか、気にした風も無い。
積んでいるのは、キャサリンの作った魔法具と、母の作った薬品。
定期的に卸に来ていて、二人にとって国は上得意様であった。
キャサリンはいつもの入城申請書に、持ってきた物品名と自分の名を書き込む。
受付嬢はその用紙を受け取ると、引き換えに首にかけるネームプレートを差し出した。
「いつもご苦労様です。」
「どーもー。」
キャサリンは応えながら首にかけ、リヤカーをガラガラガラと引いていった。
この世界に、マジックボックスなどという気の利いた物は存在しない。
故に物品の移動手段は、バッグや背負い袋から、リヤカーから大型馬車に至るまで重要な存在。
だからキャサリンのような美少女がリヤカーを引いている姿があっても、特に不自然という印象は無かった。
ただ、大きなシートで覆っていても、リヤカーは盗賊に狙われやすい。
家から王城前に来るまでの間、そういった視線はあったのだが、実際に襲ってくる者はいなかった。
ウェストブルッグ家の次女。
たったそれだけの理由で敵は全て後ずさる。
キャサリンの風魔法で命を落とした盗賊が山といるのだから、それもまた当然か。
そして当人といえば、盗賊の存在はスルーして、いつものお気楽極楽ノホホン顔で、今日もノンビリとリヤカーを引く。
週一のいつもの光景であった。
そして王城区域内の敷地にある、王宮魔法陣の塔に到着。
首にかけたプレートに反応し、正面扉が自動ドアの様にスライドして開いた。
王宮魔法陣の塔は、古の時代に建てられたビルを利用している。
地上6階、地下1階と、割と小さめなビルは電力を完全に失っていたが、そこは魔道具で上手く補い、ある程度機能していた。
正面の自動ドアから入ると広いエントランスにくる。
キャサリンはここで週一に納品し、タップリと稼ぐ。
少しすると、パタパタパタと軽く走りながら、一階担当の受付嬢がやってきた。
「あ、いつもどーもー。」
「はーい、ご苦労様でーす。」
キャサリンがリヤカーのシートを外し、受付嬢が一品一品チェックする。
うん、今日もいつも通り・・・ん、何これ?
リヤカーの端に寄せられていた細長い箱。
共通語で試作品と書いてある。
「あのー、こちらは?」
「ポーラお姉ちゃんに頼まれていた物でーす!
とりあえず作ってみた試作品だから、評価をお願いしますと言っておいてくださーい!」
破封の陣の長であるポーラ様にお姉ちゃんなんて言うのは、この娘くらいでしょうね。
肝が据わっているのか、何も考えていないのか。
「この品の料金は?」
「評価後でいいでーす!」
何も考えてないような気がするわ・・・まあ当人がいいと言うならいいけど。
「また何かの新作ですよね?
かなり金額かかっていると思うんですけど、いくらか前金受け取った方がよくないですか?」
「ん、だいじょぶ、だいじょぶ。」
全然大丈夫に感じない受付嬢であった。
何かあったらあたしが怒られるんだけどなー・・・仕方ない、怒られない事を願おう・・・ね。
あー、なんか胃がキリキリするわ。
「・・・分かりました。」
キャサリンは試作品以外の料金を受け取り、空になって軽くなったリヤカーを引いて帰っていった。
その後、その受付嬢は一階にある聖刻の陣の長である説教婆さんマサリナに
「なに馬鹿やってんだい!
相手は三流発明家じゃない、玄人レベルの発明家だよ!!
謝礼金も含めて最低でも5万リラ支払うのが筋ってもんだろ!!!
受け取る受け取らないじゃなく、無理にでも押し付けな!!!!」
と、神雷級の説教を喰らったのであった。
「すっ、すみませーん!!!」
あのノホホン顔で玄人とかって、どう考えても理不尽でしょー!!!
受付嬢は、トボトボと細長い箱を持って昇降機に乗り、5階へ。
破封の陣の長ポーラに、キャサリンさんからですと言って手渡した。
「あら、試作品とはいえもうできたの?ありがと。
たまたまベースになる杖でも持っていたのかしら?」
ベースになる杖?
今時杖を媒介する魔法使いっていないと思うんだけど・・・。
受付嬢が不可解に感じながらも、ポーラが箱を開ける様子を黙って見ていた。
すると・・・。
豪華に装飾された杖。
それも先端にはレッドルビーのような宝石が惜しげも無く7個も使われているではないか。
見る人が見れば間違いなく国宝級レベルの完成度だ。
これが試作品!?うそでしょ!!?
・・・ていうか、あたしこれに前金払ってなかったのぉ!!!?
受付嬢が思い余って気を失い、倒れてしまった。
ポーラはその様子に何となく察し
「あなたも苦労人ね。」
と同情だけしていたようだった。
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