第7話(3)

 王城前広場にある芝生の一画で占いを営んでいる老婆ベレッタは、お昼休みでサンドイッチをほおばっていた。

 暖かい日差しの中、今日も何事も無くのんびりと・・・と思っていたのだがねえ。

 あたしが言うのもなんだが、ジジイの次はババアかい。

 それも悪友ときたもんだ。

「久しぶりだね、バーバラ。

 占いに無縁なアンタが何の用だい?」

 バーバラは、ベティーを宝物庫に行かせた老婆であった。

 占いに無縁と言われ、鼻でフン!と応える。

「預言に限りなく近いような占いなんざ、怖くて出来るかい。

 どうせアタシが来る事も少しは勘づいてたんだろうにさ。」

 するとベレッタは首を横に振り

「身内とお客の運勢を気にするので手一杯だよ。

 ・・・孫娘とアンタが出会うのは視えたがね。」

「ああ、魔術探偵だったかい。

 こんなババアの依頼でも受けてくれるかねえ。」

「受けるさ。

 誰に似たんだか危ない橋渡っても気にするタイプじゃないし。

 対価さえ払えばね。」

「対価ならあるが、仕事の内容が危険過ぎる。

 だからアンタんとこに来たんだよ。

 元王宮騎士団獣魔術総帥ベレッタ・ロン・ウェストブルッグの力を借りに。」

 御大層な肩書で言われ、今度はベレッタが鼻でフン!

「とっくの昔に現役引退の身だよ。

 老体に鞭打たせる気かい。」

「今でも魔獣ケルベロスを従えるだけの魔力を持っていて現役引退?

 笑わせんじゃないよ。

 ベレッタが引退を強く望んで、国が渋々受け入れただけの話だろうにさ。」

「・・・詳しいじゃないか。

 ババアのストーカーが趣味だったのかい?」

「相変わらず口が減らないね!」

「お互い様だろうさ。」

 ここまで言い合うと二人ともニヤリとし、バーバラはお客用の椅子に腰掛ける。

「まあ元気で安心したよ。

 それなら、アタシの依頼もこなしてくれそうだ。」

 するとベレッタは先を見越す様に

「バーバラがケイトに仕事依頼したら、あたしの魔獣でケイトを守れとでも言いたいんだろ。」

 そう言われ、バーバラはまたもニヤリとする。

「よく分かってるじゃないか。

 なんせ相手が相手だ、用心するに越したことはない。」

 だがベレッタの答えは冷ややかであった。

「悪いが断るよ。」

 バーバラが目を丸くする。

「何馬鹿言ってんだ!

 あんたの孫娘を守るって話だよ!!

 断る理由がどこにあんだい!!!」

 ここでベレッタは大きく息を吐いた。

「・・・今回ばかりは無用だよ。

 ケイトには目付が来る占いが出ている。」

「目付?

 まさか国がわざわざ動くとでも?」

「どんな経緯かは知らんがね、王城の魔人が付くようだ。」

 その二つ名に、バーバラは凍り付いた。

「・・・あれがなんで序列4位か知ってるかい?

 普段から裏方で動くんで、討伐数が少なくて4位に留まっているって話だ。

 序列10位のフィルみたいなタイプだが、あれの実力は御庭番の中でも桁が2つか3つ違う。

 まさか国は侵入者全てを暗殺する気かい!?」

「それは無いよ。

 少なくとも“来賓”として来ている者たちは殺さない。

 そこには御庭番のトップ3とうちの息子、あと金等級の冒険者も付く事になってる。」

「金等級?

 まさか、ギルドマスターのシャディ自ら?」

「いやいや、シャディは脳筋だからエルフたちのようなスペルユーザーとはそりが合わんだろ。

 旦那の方だよ。」

「旦那ってたしか、王国4位の魔法使いっていうミシュランかい?」

「そうそう。」

「・・・あれも、どうかと思うがねえ。

 確かボディビルと格闘技やってる異色の魔法使いだろ?」

「あんなナリだが、魔法使いの腕としては確かだよ。

 だから・・・」

「だから?」


「あたしの魔獣は、バーバラのガードに付ける。」

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