第5話(2)

 バーバラ婆さんが移動系の魔法を唱えると、先ほどベティーが通っていった扉の行先がまた変わった。

 絵でその仕掛けを作る技術といい、歴戦の魔法使いであるに違いない。

 こんな老婆が、何故盗賊ギルドの顧問などしているのだろう。

 そして問題児であるベティーの存在を認め、相手しているのも気になる。

 扉を開け、新たに現れたのは階段ではなく通路。

 先は短く、数歩で次の扉が開けた。

 カクテルバーのようなフロアが見える。

「クソ爺はいるかい?」

「相変わらず口の減らねえ婆だな。

 たまにしか顔を出さねえ顧問様が何か用か?」

 セイルのアジトも酒場だったが、盗賊は酒場をアジトにしたがるものなのだろうか。

 蝶ネクタイを付けた初老のバーテンダーが、少々重い声色で応えていた。

 やれやれ、そんな声じゃ客も近寄れんだろうに。

 バーバラはカウンターの真ん中の席に腰かけた。

 バーテンダーとバーバラ以外に人は見当たらない。

「ジュドーが杖を返すとさ。」

「なにぃ?

 ・・・そういえば数日中にスージーが城下町に来るって情報があったな。

 それ絡みか?」

 言いながらバーテンダーはカクテルを作り始めた。

 シェイカーを手に取り振り始める。

「そのようだね。

 杖の件は極秘情報のはずだ。

 ジュドーもスージーの話は聞いていただろうが、それだけで動くとは思えん。

 もしかしたら王城前広場の占い師に、己の行く末でも占ってもらったかもねえ。」

「で、婆さんも動くのかい?」

「・・・ついさっき、あたしの仕掛けた絵のギミックを見破られた。

 あたしに匹敵する魔力を持った魔法使いが動いている可能性が高い。

 もしかしたら国が直接関与している可能性もある。」

「王宮魔法陣のポーラか?」

「もしくは直弟子のケイトだろうね。

 だからベティーを先行させたよ。」

 その名を聞かされ、腕の振りが激しくなる。

「ベティーだあ!?

 あの悪ガキ、こっちに戻ってきてたのか!!?」

「シェイカーの手つきが荒いよ!

 マズいもん飲ませる気かい!!

 ・・・ベティーはきてたよ。

 きて早々ジュドーに杖を頼まれたらしい。

 この国の者に杖を渡せとでも頼んだんだろ。」

「・・・そのまま右から左にマハラティーニの者に手渡して終わるんじゃねえのか?」

「この国の連中は神算鬼謀な極悪人しかおらんよ。

 そんな単純馬鹿な事は間違ってもしない。

 マハラティーニの要人が動いている時に合わせて杖をこの国に手渡す。

 それがどんな意味を持つか、こっちが言わなくても考えてくれるだろうさ。」

 バーテンダーはそこまで聞くと、フゥー、と大きく息をついてカクテルをドン!と差し出した。

 そしてボソリと呟く。

「あぶり出せると思うか?」

 バーバラは出されたカクテルを一気に飲み

「これは最初で最後のチャンスだ。

 意地でもあぶり出してみせるさ。」

 目を大きく見開いて吐き出すように語っていた。

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