第5話(1)

「あっちゃー、護衛団の人でいっぱいだなー。

 旧貿易倉庫は完全に抑えられちゃったかー。」

 小人族の女の子ベティーは遠巻きにウロついていたが、無理と判断したのかアッサリとその場を離れていった。

 まるで、侵入ルートはまだあるとでも言いたげに。

 旧貿易倉庫のある北区から、一般居住区と病院のある北東部へと歩いていく。

 向かった先は馬車の停留所だった。

 シーズン・ホスピタル“秋の塔”前。

 随分と古くからある停留所なのか、ひどくボロボロな小屋に見えた。

 辛うじて雨がしのげそうなベンチに、一人の老婆が座っている。

 か細い声で

「どちらまで行かれるんで?」

 と聞かれた。

 ベティーがにっこりと笑みを見せ

「ちょっと裏通りの行きつけのお店にねー。」

 と応えると、老婆はフン!と鼻息を荒くした。

「えらい久しぶりじゃないか、ベティー。

 資金が底をついたのかい?」

 さっきの台詞は合言葉だったんだろうが、自然と普段の会話の一部に溶け込んでいる。

「まっさかぁー、あたしの懐はいつだって潤沢だよお!」

「なのに、お店に行くのかい?」

「ジュドーのおっちゃんからお使い頼まれたんだ。

 いいかな?」

「ジュドーからの・・・?

 そりゃ珍しい。

 人一倍慎重な男が、人一倍問題児な奴に頼み事とはねえ。」

 そう言われてベティーが顔を近付ける。

「だぁーれが問題児だってえ!?」

 だが老婆は少しも気後れする事ない。

「は、お前以外に誰がいるかい。

 ・・・行くのは構わんが、用心しておいき。

 ついさっき旧倉庫の絵の仕掛けに気付かれた。

 行先でバッタリかち合う事になるかもよ。」

「え!?

 バーバラ婆さんのアレに気付いた人いたの!!?」

「一応あたしの使い魔で時間稼ぎはしてやるが、急いだ方がいい。

 盗賊ギルドのマストとアンカーでもぼちぼち動く事だしねえ。」

「マストは今の宝物庫管理だから分かるけど、なんでアンカーまで?」

「アンカーは麻薬密売が主な業務内容だからね。

 セイルが麻薬で潰されたとあっちゃ、黙って再編を見ているだけってわけにはいかんのだろうさ。

 例外な麻薬のカスが少しでも残っていたら大事だし。」

 これを聞いてベティーはわざとらしく考え込むように腕組みして横目でチラリ。

「バーバラ婆さんは一応フォクスルの幹部だよねえ。

 そっちで動きはないの?」

 ベティーの声にバーバラはギロリと睨む。

「幹部なんていつの話だい。

 とっくの昔に顧問だよ。

 フォクスルはセイルの人員再編以外で動きを見せるつもりはない。

 護衛団の連中がうるさいからね、目立つ行動はしないはずだよ。」

 言いながら、バーバラと呼ばれた老婆は青い鍵をベティーに手渡した。

 ベティーは少々驚いた顔つきでバーバラを見る。

「・・・何を盗りにきたか分かってたの?」

「ジュドーからって言ったら、あの杖以外ないだろうからね。

 そもそもあの杖はジュドーだけじゃない。

 あたしもマティスも一枚噛んでたんだ。

 ・・・無事に解決する事を願うよ。」

「解決って、この国に渡せばいいってジュドーに言われたけど?」

「その杖を狙っている奴は他にもいる。

 とにかく気を付けな。」

 バーバラはそう言いながら、小屋の扉の行先を魔法で変えた。

 するとベティーは自らの胸元をバンと叩き

「あたしの仕事はいつだって完璧だよ!

 じゃあ、行ってくるねえー!」

 大口も叩いて、入って来た扉から地下へと降りて行った。

 バーバラはその直後に杖を使って立ち上がる。

「どれ、私も動くとするかね。」

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