第9話(2)

 盗賊ギルドの宝物庫と思える場所で、御庭番序列4位のロバスは深く息をついた。

 ちなみにトレーシーはお先に地上に戻っている。

 王宮魔法陣“破封の陣”の調査団に至るところを調べてもらっているが、特に仕掛けらしいものは見当たらない。

 まだ何かあると思ったのですが・・・私の勘も鈍りましたかね。

 そう思いながら天を・・・いや天井を仰ぎ見た時、奇妙な絵と文字が目に入った。

「・・・レールの上を細長いトロッコが走る絵・・・?

 これは、最近発見された旧世界の地下鉄というやつですか。

 だが何故こんな絵がこのフロアの天井に?

 文字は擦れてて読みにくいときている。」

 ロバスがブツブツ言っていると、調査団の一人が近付いてきて

「ロバスさん、ガラクタを撤去したら、壁に大きな絵と細かい文字を見つけました!

 ちょっと来てもらえますか?」

「あ、はい。

 じゃその間に、天井にある文字が読めるか確認してもらえますか?」

「え・・・あ!全然気付かなかった・・・!」

「光苔がところどころにあるとはいえ、薄暗いですからね。

 私もさっき偶然見つけたばかりです。

 頼みましたよ。」

「はい!」

 ロバスは天井の文字解読を頼んで、見つかったという壁を見に行った。

「これは、路線図?」

 近くにいた調査団の一人が軽く頷く。

「間違いないです。

 古の時代の公共交通機関のようです。

 時刻表もあるんですが、刻まれている時間が細かいですね。

 こんなのよく管理できるなと思いますよ。」

「乗合馬車とは比較にならない、精密な発車時刻ですか。」

 しかし何故宝物庫にこんなものが?

 いや待て、宝物庫は今の時代の話だ。

 では昔ここは何だったんだ?

「まさか。」

 ロバスはおもむろに入って来た宝物庫の扉を確認した。

 すると扉には小さな刻印文字で『緊急用防火扉』と書かれているのが読み取れる。

 防火扉は大きく重く、一見するとただの壁に見えなくもない。

「これと同じ扉を探して下さい!

 必ずどこかにあるはずです!

 私も一緒に探します!」

 土埃が壁に引っ付いていて、壁か扉か見分けがつかない状態だ。

 もう1つ2つあっても不思議ではない。

 そう思って探していたら、路線図の近くに大きな防火扉を発見。

「ありました!」

 雑にだが土埃を取り除き、鍵が掛かっていない事を確認するや、皆で勢いよく押す。

 うりゃああああ!

 どりゃああああ!

 うおおおおおお!

 人それぞれな気合いの声を上げ一心不乱に力を込めると、ズズズと重い音を立てながらゆっくりと扉が開いた。

 奥は光苔も無いのか暗い。

「ライト(照明)の呪文唱えます。」

 調査団の一人が魔法を詠唱して周囲を明るくする。

 かなり広いフロアが姿を現した。

 扉の状況からして、盗賊どもも知らない未開のエリアだろう。

 長い間封印されてきた場所だからか、あまり劣化したようには見えない。

 天井から吊り下げられた看板には『改札口』と書かれていた。

 左側の壁には券売機、窓口、従業員用の扉がある。

 調査団の皆は、世紀の大発見に言葉が出なかった。

 奥の通路は更に地下へと降りる階段が見える事から、一旦フル装備して出直した方が良いと判断。

 はやる気持ちを抑え、宝物庫へと戻る。


 すると、ここに一人残って天井の文字を解読していた男が手をあげた。

「ロバスさん、これ暗号かもしれないです!」

「え、まだ何か秘密が・・・そうか、本命の宝物庫の場所!」

 そうだ、ガラクタだけで終わるはずがないと思って扉を探していたんだ。

 新たな空間の発見で忘れそうになっていましたね。

 調べてくれた男が紙面に書いた文章を読み上げる。


「昼の顔と夜の顔。

 同じ人物でも時が変われば姿も変わる。

 魔も然り。

 月の満ち欠けは時の門番。

 満ちた時、真の姿を解放す。」


「ワーウルフ(人狼)の事を語っているみたいですね。」

「満ちた時とは満月の事でしょうが・・・。

 うーん、何かまだ別に満月にちなんだアイテムでも必要なんでしょうかね。」

 貿易倉庫の一室では、絵画の掛け替えが入口に繋がった。

 そういったギミックがあると思うのだが、残念ながら現時点では分からないままのロバスであった。

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