第11話(1)
ケイトの住むガーディア国で杖の騒動が起こっている中、渦中のマハラティーニ国では静寂そのものであった。
今回の一件は、大きく3つの動きが見て取れる。
1つ目は、国王長男の次期国王問題の対応。
2つ目は、それを阻止する対応だ。
どちらにも共通して言える事はただ一つ。
国民に一切の騒動を見せず、真摯に行動して目的を達成する。
そういった意味では
「他国に杖が流れていたのは重畳であったな。」
という声が双方から出ても不思議ではなかった。
しかしながら、3つ目の動きと言える邪教集団ラハブでは、当然の様な問題に長く直面している。
「数十年前に杖が抜けたというのに、何故ラハブは復活しない?」
「やはり、龍が封印されているという話はデマなのか?」
「そもそも南の海にいたという龍が、こんな大森林の中で封印されているという話を信用してもいいのか?」
国民に騒動を見せてはいないが、組織内部では長ーく騒動が続いていた。
ハイエルフなら数十年など気になる月日でもあるまいにと思うのだが、邪教徒の面々は気にしてしまうらしい。
封印の魔法陣と杖があった場所から森に少し入った場所に、小さな祠がある。
小さな石板を手にした状態でその祠に触れると、地下へ転移する仕組みになっていた。
石板は7枚しかない為、教祖と側近6人のみ転移が可能。
転移先は、魔法陣の真下にある地下の鍾乳洞へと辿り着く。
そこにある地底湖に、邪龍ラハブは封印されているという。
杖を抜き取られ魔法陣の効力を失った状態にありながら何故復活しないのかについては、邪教徒の幹部たちにも謎でしかない。
その地底湖を見つめる男に、背後から来た男が声を掛けた。
「今日もここに来ていたか。」
「信者たちの疑心暗鬼を払拭させるには、姿を見せてもらった方が早いのだがな・・・。
我らは何を見落としているのだろうか?」
「それについてだがな、今になって妙な情報が入り込んできた。」
「妙な情報?」
「杖は、封印と解除、両方の役割を持つ、と。」
「何!?」
「地底湖で杖を掲げ、杖の魔力を解放すれば邪龍は復活するとな。」
何もかも初耳な話に、男はしばらくの間言葉を失った。
その後、大きく息をついて唸るように声を出す。
「ううむ・・・まずいな。
ガーディア国に赴いた奴らには、杖が我が国に戻ってこないよう留めさせろと命じていた。
その話が事実なら、どんな手段を使ってでもこの場に持ってこなければならぬ。
・・・情報はどこからのものだ?」
「黒い服を着た商人風の男だ。
エギルと名乗っていたが、エルフや人間ではない別の存在に感じた。
隠しているつもりだったのだろうが、内に秘めた魔力の量が尋常ではない。
商人は信用第一とか語っていたが、あれは・・・。」
「魔族か魔界人の可能性があるか。」
そう言われ、情報を持ってきた男は深く頷いた。
「その情報に対価は求められなかったのか?」
「自分は武器商人だから、争いの火種を解放するのも仕事のうちだと言っていた。
結果的に商売になるからと。」
「・・・なるほど、死の商人というわけか。
面白い、そのエギルとかいう男の話、信用してやろう。」
「・・・いいのか?」
「どっちみち手詰まりだったんだ。
ならば可能性のある方に懸ける。
この地に残っている我ら幹部全員でガーディア国に行くぞ。」
この決断は、友好国であるガーディア国の城下町を戦場にするという、宣戦布告のように聞こえた。
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