第15話(3)
神聖魔法を有する寺院でも治療できない奇病の存在。
唯一の救いは病院となる訳だが、
病院もまた、無から患者は救えない。
病院は医術・精霊術・錬金術などで治療法を成り立っていた。
中でも錬金術で製造される薬品は、病院の要。
故にその原材料ともなれば、
破格の金額が提示される事も珍しくない。
その原材料の中には、魔獣の血液もあった。
昔、そこに目をつけたチンピラな盗賊が、
ある計画を思い付く。
魔獣をつがいで鎖につないで飼い、
生まれた子の魔獣を潰せば、
定期的に血液を入手できる、と。
希少な魔獣だが、
そのチンピラはたまたま生息場所を知っていた。
それはジャイアント・アンティター(巨大アリクイ)。
ジャイアント・アント(巨大蟻)の天敵で、
魔獣の中では比較的大人しい。
害虫駆除的な存在なので、狩猟数は制限され、
ある程度の生息数を保護するよう、
冒険者ギルドでは努めている。
初級の獣魔術師に人気がある為、
これを好んで狩る者は稀であった。
その為、これの狩猟依頼をするのはもっぱら病院。
これの血液が、蟻化病をはじめとする昆虫魔物系が原因の
奇病に効果があるとの理由で、冒険者ギルドが依頼を受けていた。
冒険者登録してなければ、直接問屋に直接売りつけてもいい。
だだっ広い宝物庫がある。
そこに巨大な檻を設けて飼育すれば、ぼろ儲けだ。
そんな単純な考えが、最大の甘さと愚かさだと気付かずに。
初めてメスが子を出産した時、それは起こった。
金が欲しいチンピラはすぐに親から子を取り上げ、
はやる気持ちを抑えきれずに檻の外に出るとすぐ子を殺したのだ。
親の目の前で。
はやる気持ちのせいか、普段大人しい魔獣だからか、
あまり気にせず檻の扉を閉じていなかった。
激怒したオスが檻の扉を一撃で破壊。
次の瞬間、子を殺したチンピラは踏みつぶされて即死した。
残ったチンピラたちは4人いたが、怒り狂ったオスの突撃で3人死亡。
最後の1人が命からがら逃げ、宝物庫の扉を閉じたという。
それ以降4番の宝物庫が使われる事は無かった。
逃げ切ったチンピラは渋々上に報告したが、その直後行方不明に。
同僚に殺されたと思われる。
宝物庫に閉じ込められ、餌が無くなればそのうち死ぬはずだが、
盗賊たちは一番ヤバい実態に気付く。
その当時、4番の宝物庫は密輸した食料品を大量保管していた。
主食の餌が無くなれば、当然生きるためにそれらを食うだろう。
古き時代にシェルターとして活用されたその場所は広く深く、
かなりの食料品を詰め込んでいたはずだ。
…もしかしたら、数年は生き続けるかもしれない。
もし、4番の宝物庫に別の扉があって、
今回の地下遺跡発見騒動でその扉が開いてしまったら…
狂獣と化したジャイアント・アンティターが2体、
地下遺跡に解き放たれる事になる。
盗賊ギルドに属していれば、
『4番の宝物庫に近寄らない事』
と警告を聞けただろう。
だがギルドにすら入っていない追い剥ぎどもは、
『4番の宝物庫が開いた』
と盗賊どもの情報を盗み聞き、
意気揚々と向かっていったのだった。
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