第6話(3)

 音も無く蠢く黒い魔獣。

 影獣(シャドウ・ビースト)と呼ばれるその存在の正体は魔法生命体。

 石でゴーレムを作るように、影で獣を作りだす。

 物理攻撃の苦手な魔法使いが護身用に作るのが主な理由だが、宝物庫の門番というのもありふれた一例であった。

 

 この影獣は鍵を所有している者が来たからか、薄暗い闇の中に溶け込むようにして消えていく。

 これを見て、ベティーはホッと一安心。

「よかったあー。

 狂ってたわけじゃなくて、本当に敵と戦ってただけだったんだー。」

 ロバスはホウと言いながら

「影獣を使役するとは、ずいぶんと腕の良い魔法使いがいるようで。」

 とベティーの顔を覗き込むように語る。

 とりあえず誤魔化すのかと思いきや、ベティーはドヤ顔で

「そうでしょ、そうでしょ!

 あのお婆ちゃん、口は五月蠅いけど腕は確かだからねー!!」

 とふんぞりながら熱く語った。

 ケイトは横目で見ながら、

 なんであんたがドヤ顔してるのよ、

 と口に出そうなところを抑え込む。

 ・・・にしても、老婆の魔法使い?

 うちのお祖母ちゃんか説教婆さんだったら何か知ってるかなあ。

 って、それよりも

「死んでいる奴らを確認しましょ。」

 ライト(照明)の呪文を詠唱して周囲をより明るくした。

 ヒカリゴケが自生しているが、奥の方はさすがに暗い。

 ロバスが先に出て全員死んでいる事を確認。

 人数は5人。全員が頭巾で両目以外を覆っていた。

 トレーシー、ケイト、ベティーも死体に近付く。

「5人全員首元を斬られて即死・・・。

 影獣の爪は薄くて鋭利だから、抵抗出来なかったのかなあ。」

 ケイトの声にロバスが頷く。

「忍術でも土遁に操影術はありますが、習得は極めて難しい部類です。

 影獣に対抗する術など無かったのでしょう。

 しかし困りましたね、身元を証明する物は待ち合わせてなさそうです。」

 言いながら死体の頭巾を取ると、いとも分かりやすい風貌が現れる。

「・・・エルフ!

 まさか、西南にある巨大国家マハラティーニの?」

 トレーシーの推測に、ケイトは首をかしげる。

「うーん、今は城下町に来ている冒険者たちにもエルフって結構いるから・・・。

 はっきりと確定させるには証拠も情報も無さすぎるわ。」

「そっか、そうよね。」

「でもマハラティーニから要人が来ているこのタイミングでエルフっていうのは、偶然で片付けるべきじゃないのも確かよ。

 あの国の魔法なら、どんな鍵でもアンロックの上位呪文で開けられそうな気がするし。」

 ここまで聞いていたベティーが声を上げる。

「あたし、お婆ちゃんに聞いてみるよ。

 お婆ちゃんなら、何か知っているかもしれないし。」

 この声にケイトがピクリとする。

 絵画や料理本に開錠のヒントを残したり、扉を一枚の絵で自在に行き先を変えるギミックを作り出す凄腕の魔法使い。

 是非ともお会いしてみたいわ!

「ベティー、あたしにも紹介してくれない?」

「え、ケイトに?」

「ロバスやトレーシーだと御庭番だから警戒するかもだけど、あたしなら同じ魔法使いだからいいでしょ。」

 ベティーは頭を下ろして少し唸っていたが

「うん、分かった。

 会ってくれるか聞いてみる。」

「ありがと!」

 嬉々とするケイトの表情に、間が悪いかなーと思いながらもベティーがゆっくりと口を開いた。

「みんな、わるいんだけどー・・・。」

「どしたの?」

「杖探すの手伝ってくれない?」

「え・・・えーっ!!」


 ケイトのライトの呪文で照らされた空間は広く奥深く、適当にあちらこちらに積み上げられた戦利品がそれぞれ山となっている。

 この中から目的の杖を1本探し出すのは、森の中の木の葉のように感じたケイトたちであった。

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