第3話(1)

 次の日の朝。

 ケイトは、いつもの古文書解読アルバイトで解読した文書を袋に入れ、王宮魔法陣の塔に来ていた。

「先週分です。

 確認お願いします。」

「はい、ご苦労様。

 そこのソファーに座って待ってなさい。

 次の古文書を用意するから。」

 ケイトの親友アリサの祖母であるマサリナは、今日も張り詰めたような気を纏っていた。

 コーヒーを出され、ケイトはいただきますと言って大人しく飲んでいる

 ・・・コーヒー出すなんて珍しいな。

 普段は紅茶なんだけど、切らしたのかしら。

 などと思っていると、コンコンとノックがして扉が開く。

「失礼致します。」

 聞き慣れた美女の声に、ケイトが座ったまま振り向いた。

「ポーラ!?」

「そんなに驚かなくてもいいでしょ。

 ここの5階に私の部署があるんだから。」

 話しているとマサリナがコーヒーの入ったカップをもう一つ持ってきた。

「ポーラ、あたしはまだ手がかかるから、先にあんたの用件を済ませてしまいな。」

 え?

 まさかポーラ

「あたしに用があって来たの?」

「ええ。

 私の弟子にではなく、魔術探偵のケイトにね。」

 そう言いながら、ケイトの隣に大きな胸を揺らしながらゆっくりと座る。

 ぐ、まぁーた厄介な依頼を持ってきたの?

 この地上最強のホステスは。

「変な依頼だったら断るわよ。」

「杖を探してほしいのよ。」

「杖?」

 ポーラは紙切れをケイトに手渡した。

「昨夜、南部国境から届いた伝書よ。」

 ケイトはコーヒーを飲み干すとカップをテーブルに置き、伝書を黙読。

 読み終える頃には額から冷や汗が流れていた。

「スージー魔法騎士団次席・・・。

 ポーラ、これ真面目な話・・・よね。」

「仮に酔っぱらってもそんな事書けないでしょ。

 杖の特徴は記載されている通り、7個のルビーを嵌め込んだ豪華な装飾が施された杖。

 類似品なんて無いでしょうから、迷う事は無いと思うけど。」

「杖はなんとなく理解したけど、邪龍ってのは引っ掛かるわね。」

「邪龍なんているわけないって?」

「うーん、封印ネタなら悪魔がベタなのに、なんでわざわざ邪龍なのかなって。」

「もし嘘をつくとしても、邪龍は変だって事?

 マハラティーニには一応邪龍が暴れたっていう昔話があるみたいよ。」 

「まさか、本当にいるのかなあ?

 封印するだけなら他にやりようがありそうだけど。

 そもそも魔法最先端のハイエルフ国家で、代替えの杖一つ作れないってのもなんだかねー。」

「今ルビーは資源枯渇していて皆無に等しいわ。

 杖の製作条件がそれなら、作れない理由も頷けると思う。」


 ポーラめ、意地でもあたしに捜索させる気か。

 他国の話なんてロクなもんじゃないのがほとんどなのに。

 ・・・ていうか、ここまで話知ったらどっちみち断れない・・・よねえ。


「仕事料は奮発してくれるんでしょうね。」

「大丈夫、女王には話ついてるから。」

 ケイトは覚悟したようにフーッとため息をつくと、スッと立ち上がる。

「分かった、杖捜索の仕事引き受けるわ。

 あたし以外に誰か動く人はいるの?」

「私の部署“破封の陣”が全面的にバックアップする。

 主となって動くのはケイト以外にはいないと思うわ。

 ・・・ボディーガード役に誰か付ける?」

「それはいいわ。

 使い魔のフレイアがいるし。

 それとも目付役が欲しい?」

「身も蓋もない事言うわね。

 今回は人手不足だから、いらないのなら助かるわ。」

「人手不足?」

「あら、聞いてない?

 マハラティーニから要人の来訪だけでなく、

 大聖堂から寺院への来訪、

 そして盗賊ギルド“セイル”再編の動き、

 色々と目配せしなきゃいけない状況になっているのよ。」

「盗賊ギルド“セイル”って、禁断の果実の事件の時に壊滅した?

 再編って事は、4つの盗賊ギルドは元々1つの大きなギルドだって事か。」

「ええ、国に対して圧をかける気なんでしょうね。

 ま、そっちはケイトが気にする事じゃないから。」


 話が終わりそうなところで、マサリナが未解読の古文書を数冊持ってきた。

「ケイト、ポーラの仕事が最優先でいい。

 終わったら解読を頼むよ。」

 ケイトは分かりましたと言って古文書を受け取り、部屋をあとにしていった。


 マサリナが立ち去ろうとするポーラに声を掛ける。

「スージーの文書は見せて、メリルの文書は見せなかったのかい。」

「内容はどちらも筋が通りますが、決め手に欠けます。

 それでしたら正規ルートで来訪するスージーの文書を見せるのが良いと判断しました。」

「・・・そうだね、確かにそれが正しいか。

 まあケイトは聡いから、捜索ついでに真実も掴むかもねえ。」

 するとポーラはニコリと妖艶な笑みを見せ

「もちろん期待していますわ。」

 といって去っていった。

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