第4話 光の妖精

「・・・そうか。リカルドには光しか見えないのだな」

 ジェマは寂しげに笑って、手に乗ったルークルを、リカルドの前に差し出した。

「リカルド、ここに『光の妖精』が居る。名はルークル、女の子だ」


「妖精・・・だと?」

 いぶかしげにつぶやいたリカルドは、手を伸ばして、淡い光・・・ルークルをつかみ取ろうとする。


「何するのよっ!」

 ルークルはひらりと飛び上がって、リカルドの手を思いっきり蹴った。

「痛っ!」

 驚いた顔をして、リカルドは手を引っ込める。

 そして不思議そうに、飛んでいる光と自分の手を交互に見ていた。


「こらっ、ルークル! 乱暴しないで!」

「乱暴なのはどっちよ! 急に掴みかかるだなんて、失礼じゃないのさ!」

 ジェマに叱られて、ルークルは不満そうに手足を大きく広げる。

 すると、ルークルが発していた淡い光が、ふわっと強く光った。

 それを見て、リカルドはハッと何かに気づく。


「それは・・・俺の天幕で突然光った、目くらましの光だ。・・・そうか、あの時、『ルークル』と言っていたな」

 リカルドの言葉に、ルークルは「ふふん」と鼻を高くする。


「そ、あたしの力。なんならもう一度見せてあげようか?」

 小さな両腕の間で、光が更に強く光り出した。


「やめてルークル! さぁもう、部屋へ戻ろう。干しイチジクのクッキーがあるよ」

「イチジクのクッキー!」

 大好物を耳にして、妖精はパアッと明るい顔になる。

 同時に、膨らみかけた光は、再び淡く柔らかいものへ戻った。


「ねぇねぇ、ミルクもあるの?」

 ルークルがひらひらと、ジェマの手のひらに帰って来る。

「もちろん。蜂蜜とシナモンを入れてあげる 」

「きゃっほう!! 」

 甘いものが大好きな妖精は、ジェマの手の上で、嬉しそうにぴょんぴょんと飛び跳ねた。


「・・・妖精がそこに居るのか、本当に?・・・」

 いまだ半信半疑という風に、リカルドがつぶやく。

 ジェマはこっくりとうなずいた。


「このヴェルテラの里に居れば、リカルドにもいろいろ見えてくるかもしれない」

「・・・何だと・・」

 気分を害したのか、リカルドは顔をしかめる。


「リカルド、疲れているところ長話をして悪かった。追っ手が付かないよう、わざと悪路を選んだのに、上手に乗っていてくれて助かったよ。奥の部屋に寝台があるから、ゆっくりやすんでくれ」

 そう言って、ジェマは腰を上げた。


「部屋に寝間着も室内履きも用意してある。ぜひ靴を脱いで身体を休めてほしい」

「・・・なぜ、そんな事を言う?」

 低い声でリカルドが問う。


「天幕では靴のまま寝ていたのだろう? あの短い時間に、編み上げの丈長靴ブーツをきちんと履くのは難しいもの」

 ジェマの応えに、リカルドは自分の足に目を向けた。


「寝込みを襲いに行ったから、寝間着に素足だろうと思って、フラムの馬に毛布を積んでいたのだが、必要無かったな。軽装とはいえ、すぐに野外で動ける格好のまま寝ていたとは、感心した」

 そう話すジェマを、無言でリカルドが見据える。

 ジェマも、その強い黒い瞳を、まっすぐに見た。


「・・・ねーえ、早く行こぅ~」

 焦れたルークルが、ジェマの指を引っぱる。

「今行くよ、ルークル」

 妖精に指を引かれて、ジェマは扉へ向かった。


「待て」

 リカルドが止める。

「皇帝に何を要求するつもりなんだ?」

 ジェマが振り返る。

「税の軽減だ」

 ひと言答えて、ジェマは客間を出て行った。


To be continued.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る