第14話 里歩き


 また、リカルドから「間柄」を問い詰められたら大変だ。


「あ、あれは出入りの商人で、わたしが幼い頃から通っていて、もちろん長く連れ添った妻女がいて、娘は、わ、わたしよりも大きいはずで・・・あっ、後の二人は、商人の供で、今日、今、初めて会った。本当だぞ」


 ジェマは丁寧に説明した・・・つもりだった。


 なのにリカルドは、その形の良い眉を寄せて、

「・・・余計な情報が多いな」

 と、ひと言。


 そして、検分するような目つきで、商人を見た。

「何を売りに来たんだ? これといった荷を持っていないようだが・・・」


「売りに来たのでは無い。あの商人は商品を買取りに来たのだ。商売相手だな」

「商品? 買取り? 城に?」

 リカルドが目を丸くしている。


「うん。いろいろ作っているが、あの商人は装飾品専門だ」

「いろいろとは・・・他にも?城で?」

「工芸品の類は、里で作った物を城で一括して卸している。城内では薬草を栽培したり、養蜂も手がけている」

 ジェマの説明に、驚いた様子で聞いていたリカルドは、ひとつ大きく息を吐いた。


「・・・なるほど、そうやって現金収入を得ているのか。なかなかやり手じゃないか」

 皮肉を帯びたその言葉に、


「そうでもない。城の事は城でまかなうようにしているだけだ。これ以上民たちに、重荷を背負わせる事はできないからな」

 と、ジェマは笑顔を返す。

 リカルドは、ふいとそれから目を逸らすと、城を振り仰いだ。


「・・・装飾品か。そういえば昨夜、ジェマは宝飾を付けていたな。あれもここで作ったものなのか?」

「あれは、古くから伝え残された品々だ」

 ジェマも同じように、城を見上げる。


「ヴェルテラの宝か・・・」

 リカルドの呟きはとても小さくて、ジェマの耳には届かなかった。



 ヴェルテラの里は、森に囲まれた、ゆるやかな渓谷にある。

 ゆるやかとはいえ渓谷であるがゆえ、平地が少ない。

 その為、山の斜面を階段状に切り開いて、耕作や牧畜を営んでいた。


長姫おさひめ、おはようございます」

「今日は暑くなりそうですね、長姫」

 道行くジェマたちに、農作業をしている者たちは、気さくに挨拶をしてくる。

 ジェマも気軽にそれに応じていた。


「冷たいお茶を飲んでいかれませんか、長姫」

 道すがらの家の軒先で、老婆が冷えた緑茶を差し出した。


「ありがとう」

 ジェマが受け取って、リカルドにも手渡す。

 緑茶には干したアンズが添えられていた。

 二人は軒下にあるベンチに腰をかける。


「・・・ヴェルテラの里には妖精が多いのか?」

 ふと、リカルドが問うた。

「そうだな。わたしはあまり他の土地は知らないが、ここは多いと思う」

 冷えた緑茶をひと口飲んで、ジェマは答えた。


 リカルドは緑茶が初めてのようで、用心深く、色や香りを確かめていたが、ジェマが美味しそうに飲むのを見て、口を付ける。

 そして、軽く頷いて、今度はゴクリと飲んだ。


「妖精だけか?」

「え?」

 干しアンズを食べながら、ジェマがリカルドを見る。


「例えば、聖獣せいじゅうとかいったものは、現れたりしないのか?」

「聖獣って、ドラゴンとか獅子鷲グリフォンとか、そういうものか?」

「そうだ」


 意外だった。

 妖精を見た事も無いリカルドが、聖獣なんて言葉を出すなんて。


「うーん、わたしは見た事は無いが・・・ヴェルテラには伝説がある。一角獣ユニコーンの伝説だ」

「ユニコーン!」

 リカルドの声が大きくなる。

 ジェマはコクリと頷いて、語り始めた。


To be continued.

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る