第44話 窓の外から



 いったい何が・・・?

 下の方では、兵士たちが何かを言い合っている声や、動き回る足音が入り乱れて、騒がしい。


 もっとよく見ようと、ジェマが窓を開けた途端、何かがひらりと入って来た。


「ブリッツじゃないの!」

 声を上げたのは、ルークルだ。


 ブリッツ?

 ジェマが部屋の中を振り返ると、身体の割に、大きな幅広のはねを持った風の妖精が、すいっとテーブルの上に降り立った。


「あ、チョコレートだ! たくさん入ってる。ねぇ、ルークル、これ食べていいの?」

 ブリッツは、チョコレートの入った菓子器を、キラキラした目でのぞき込んでいる。


「あんた、何でここに居るのよ!?」

「ルークルも、何でそんな籠に入っているの? 籠に入ったら、チョコレート食べられる遊び?」

 鳥籠の中で、チョコレートまみれになっているルークルを見て、ブリッツが言った。


「ブリッツ!」

 ジェマの呼びかけに、ブリッツが振り向いて、目をまん丸くする。

 そうして、しばらく見た後で、

「ジェマだぁ!」

 と、飛んで来た。


「ジェマぁ、そんなカッコしてるから、気づかなかったよぉ」

 差し出されたジェマの手に、すいっと降りて、ブリッツは興奮気味に言った。


「ブリッツ、どうしたの? どうしてここへ?」

「あのねぇ、僕ねぇ、お馬さんを見つけてねぇ、里に連れて帰ろうとしたらねぇ、捕まっちゃってねぇ、たてがみからんじゃってねぇ、飛べなくてねぇ・・・」

 要領を得ないブリッツの話を、ジェマは「うんうん」と、辛抱強く聴く。


「そしたらねぇ、大きい兵隊さんがねぇ、助けてくれてねぇ、一緒に里に上がってくれたんだよぉ」

 大きい兵隊さん。

 ジェマの頭に、一人の兵士の姿が浮かんだ。


「ブリッツ、その兵隊さんの名前を聞いていないか?」

「お名前?・・・んっとねぇ・・・あ、シュレン。シュレンって呼んでた」


 シュレン!

 ジェマは更にブリッツに顔を近づけた。


「シュレンは? 里に上がって、それからどうしたの?」

「僕、ここまでシュレンに乗っかって来た」


 シュレンと来た?

 ならば・・・もしかして・・・?


「シュレンとだけ来たの? 他には?」

「他にはねぇ、フラムとねぇ・・・あと『でんか』と来た」


 フラムと・・・殿下!

 殿下とは、きっと・・・


「リカルド!?」

「ああ、うん、そう。リカルド」

 ブリッツは、小さな頭をこくこくと振った。


 リカルド!

 その名を耳にして、ジェマは大きく目をみはった。


 リカルドが来ている。

 リカルドが・・・


「門のところでねぇ、光の妖精が居たから、ルークルかと思ったら、違う子でねぇ、その子がねぇ、この部屋に、よそから来た妖精が居るって、教えてくれたからねぇ、来たの」

「うん、ブリッツ、本当によく来てくれたね。チョコレートお食べ」


 ジェマに許可をもらったブリッツは、「うわぁい!」と、飛び上がってくるっと輪を描いて、テーブルへ降りる。

 早速、菓子器の中へ頭を突っ込んで、「よいしょ」とチョコレートを一粒取り出した。


「・・・あんたそれ、あたしが食べたやつより、大きいんじゃない?」

 手に付いたチョコレートを舐めながら、ルークルは横目で、ブリッツが抱えている粒を見ている。


 ジェマは改めて、開いた窓から下を見た。

 ちょうど、門から館の玄関へと向かう通路が通っている。

 さっきの騒ぎは、玄関の方へ移ったらしく、兵士たちが右往左往うおうさおうしているのが見えた。


 聞こえてくる声から、招かざる客の到来のようだ。

 それは、つまり・・・


 ジェマは窓を閉めて、ひとつ息をついた。

 そして振り返ると、

「ルークル、この部屋を出るよ。協力を頼んでくれる?」

 そう言って、壁の蝋燭ろうそくの炎を指差した。


To be continued.

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