第3話 客間にて

 ジェマは得意げに、腕を組んでニッと笑った。


 だが、リカルドは、

「ぷふっ・・・・・」

 と、吹き出すと、声を上げて大笑いする。

 今度はジェマが、「ムッ」と口を曲げる番だ。


「あっははははは、何を要求するつもりか知らないが、皇帝は見向きもしないさ。そっちこそ面白いぞ、ジェマ」

「自分の息子が捕らえられて、見向きもしないなんて事、あるものか! 」

 負けずに言い返すジェマに、リカルドは意地の悪そうな目つきで言った。


「皇帝には、24歳の皇太子を筆頭に、8人もの皇子が居るんだ。その6番目などという中途半端な存在が欠けたとしても、継承に影響は無いし、皇帝は残念とも思わないだろうよ」


 ジェマは目をぱちくりさせる。

 帝国の皇子がそんなに居るとは、予想外だった。

 リカルドの言い分がもっとものように聞こえて、ジェマは肩を落とす。


 でも・・・でも、帝位の継承に影響が無いからと言って、息子が捕らえられたら、心配くらいはするのではないか?

 たとえ8人の息子のうちの6番目だったとしても、跡継ぎの長男でも、末っ子で無かったとしても、子供はそれぞれに愛おしいはず・・・だ・・・

 と、そこまで考えて、ジェマは違和感に気づいた。


「・・・リカルドは、6番目の皇子なのだろう? 」

 リカルドは答えず、ニヤリと笑みだけを返した。

「あの・・・リカルド、歳はいくつなのだ? 」

「21」

 これには短い返事があった。


 一番上が24歳で、6番目が21歳・・・?

 ジェマは指を折って数える。


「計算が合わないじゃないか! リカルド! 」

「21歳の皇子が4人居るんだ」

「四つ子なのか! それは珍しいな」

「いや、全員母親が違うんだ」


 リカルドの答えに、ジェマは目を真ん丸くする。

「は・・・4人とも・・・か・・・」


 驚いた。

 皇帝のお妃は4人も居るのか・・・。


 しかしリカルドは首を振って、

「全員だと言ったろう。8人全員、母親が違うんだ」

 と、事も無く言う。

 そして更に、

「他に皇女が10人居る。皇帝の子供は全部で18人。あくまで現在の数だが、な」

 と、付け加えた。


「じゅ、18人っっ!! 」

 驚愕の人数に、ジェマは大声を上げて身を乗り出す。

 すると・・・


「・・・あぁ、もう、うるさいなぁ・・・」

 ジェマの襟元から、小さな声がした。

 もそもそと服が動いて、微かな光を放ちながら、不機嫌な様子の妖精が出てくる。


「あっ、ごめん、ルークル。忘れてた」

「忘れてた、じゃあ無いわよ。うるさくて眠れないじゃない! 」

 ジェマの手のひらに降りた妖精は、ぷんすかと頬を膨らませた。


「・・・なぜ、ジェマの服の中から、その光が出てくるんだ? 」

 呆然としたリカルドの声に、ジェマは顔を上げる。

「その光は、馬の先に飛んでいたものと、同じものだ・・・」

 リカルドは目を大きく見開いて、ジェマの手のひらに乗っている、淡い光を見ていた。


「そ~よぅ、あたしが一緒だったから、闇夜だって駆けて来られたんだからね。一晩付き合って疲れてるのに、なんで寝るのを邪魔するのよ! 」

 ルークルはリカルドに向かって文句を言うが、当然、その声は聞こえない。

 それどころか・・・


To be continued.

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