第18話 宝のありか

 ガツッ!


 鈍い音が響いて、物盗りの男の動きが止まった。


「・・・えっ?」

 ジェマをぎ払おうとした剣が、急に重く、動かなくなったのだ。


 男が振り返ると、背後に立っていた木の幹に、剣がめり込んでいた。

 剣で切り払えるほど細い木では無く、生木に食い込んだ刃は、容易には抜けない。


「前ばかりに、気を取られているからだよ」


 言いながらジェマは、短剣を右手で持ちなおす。

 痛がる素振りは、微塵みじんも無かった。


 咄嗟とっさ、男は剣を離して、ジェマの顔めがけて拳を繰り出す。

 寸前、ジェマの身体が沈んだ。

 無防備な鳩尾みぞおちを、短剣の柄尻つかじりが、鋭く入る。


 物盗りの男は白目をむいて、あおむけに倒れた。

 息をつく間も無く、ジェマはリカルドの元へ走る。


 だいぶリカルドから離れてしまった。

 剣戟けんげきの音が聞こえない。

 ジェマは立ち木を縫うようにして、走った。



「・・・早かったな」

 振り返ったリカルドの手には、商人の弟子が落とした剣が握られていた。

 足元には、二人目の物盗りが、泡を噴いて倒れている。

 ジェマはホッと息をついて、短剣を腰に納めた。


 応急処置をした商人を含め、四人の男があちこちで横たわっている。

 そしておそらく、この林の向こうでは、商人の護衛の男も・・・

 これだけの人を、ジェマとリカルドだけでは、運びきれそうもない。


「怪我人を早く手当てしなければ。人手が必要だが・・・」

 そう言ってジェマは、空や葉陰に妖精の姿を探す。

 妖精に城へ行ってもらおうと思うのだが、この辺りに姿は無いようだ。

 斬り合いを怖がって、逃げてしまったらしい。


「ジェマ!」

 呼ばれて振り向いたジェマの胸に、ルークルが飛び込んできた。


「人手が来たぞ。・・・役立つか定かでは無いがな」

 皮肉たっぷりのリカルドの横で、汗だくのフラムが、膝に手を付いて、ハァハァと息を荒げていた。



 シュレンを里の出口まで送るはずだったルークルは、結局、下の森の辺りまで付いていってしまった。

 里に戻ってジェマを探したところ、機織はたおり工房近くの林で、見知らぬ者と対峙するジェマとリカルドを見つけ、急いでフラムを連れて来たのだ。


「フラムなんて、あたしの言葉は聴こえないし、察しは悪いし、連れてくるのに苦労したんだからさぁ」


 ルークルはぶーぶー文句を言ったが、それでもフラムが来てくれたのは、おおいに助かる事だった。

 城から走って来たフラムだったが、休む間もなく、すぐに人手を集めてくれた。


 男たちは城へ連行され、傷を負った商人には治療がほどこされた。

 商人の護衛をしていた男は、林の中で遺体となって発見された。



「・・・ヴェルテラの族長と親しく、宝物蔵ほうもつぐらへの出入りも許されているという噂だった。だから、弟子として入り込み、信用を掴んで、ヴェルテラへ同行できる機会を待った」


 午後になって、一族の幹部が臨席するなか、男たちの詮議せんぎは執り行われた。

 縛り上げられた商人の弟子は、観念した様子で、事の次第を語りだす。


 ジェマもフラムも参加していたが、客人であるリカルドの姿は無い。

 後でジェマが報告するという約束で、しぶしぶ部屋で待っているのだ。


「夜の森で物盗りを装ったのは、旦那と護衛の奴に、俺を信用させるためだ。・・・なのに、宝物蔵どころか、城内にも入れてもらえなかった。俺も護衛も、城門で待たされたんだ。俺は仲間に、宝物蔵の場所やら、警備の様子やらを教えなければならなかったのに・・・」


 予定が狂った。

 物盗りを装った仲間二人は、夜の闇に乗じて里に侵入している。

 だから思い切って、商人と護衛に仲間になるよう持ちかけた。

「今朝ほど会った長姫おさひめを人質に、ヴェルテラの宝を手に入れよう」と。

 そして・・・決裂したのだった。


「・・・宝物蔵で何を盗るつもりだったのだ?」

 族長の補佐役であるガイオが、静かでありながらも厳しく問いただす。


「ユニコーンの角だ」


 男の返答に、場がザワリと揺れた。


 ジェマは目を大きく見開いて、告白した者を見据えていた。


To be continued.






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