第35話 折衷案
翌日、道の駅が様変わりしていた。
シルヴィアが運営しているはずなのに、肝心のシルヴィアがいない。
「あれ、どこいったんだ?」
「カズヤ、あそこだ」
当のシルヴィアは、屋台で接客をしている。道の駅すみっこで。
「あーよう来たねえ。まあ座って待っといて」
シルヴィアが、こちらに気づいた。ブヒートくんも、元気そうである。
「今からつくるよってに」
六人分の焼きラーメンを、シルヴィアが作り始めた。
「お手伝いします」
頼まれたわけでもなく、フィーラが率先して動く。
「ありがとうな、フィーラちゃん」
焼きラーメンを調理する間、フィーラが客をさばいていった。
オレたちは、焼きラーメンをいただく。
人数分の焼きラーメンが、出来上がる。
「うん、シルヴィアの焼きラーメンは、やっぱりうめえ」
「そうじゃろ? 道の駅のメニューとは年季が違うんじゃけん」
屋台の客をさばきつつ、シルヴィアはオレたちの相手もこなす。
気がつけば、フィーラ以外の寮生全員が、シルヴィアを手伝う。
ドロリィスが呼び込み、アンネローゼは接客、シノブはロボットで、子供の相手をする。
一段落して、シルヴィアから事情を聞く。
「なにがあった? 親父さんとは、仲直りしたのか?」
「しとらん。だが、折衷案として、道の駅の権利は譲ったんよ」
「そうなのか。ケンカにならなかったのか?」
「元々、人にやってもらうつもりじゃったけん」
シルヴィアだけでは、道の駅までは立ち行かない。ヴィル女に掛け合って、人を雇おうとしていたところだったという。そこで、実家の若い衆に店を任せることにしたそうだ。
ちなみに、ダンジョンの構造も、シルヴィアガ担当する場所だけスゴロクに変更したという。ボスも本人のアバターではなく、若い衆を配置した。これによって、シルヴィアはより商売に専念できるように。
「今回のスゴロクで、ものには適材適所があるっていうのはわかったけん。やっぱりアーシは、魔王業なんか興味がないんじゃ。身近に接客しとる方が、アーシの性に合ってるんじゃ」
あくまでも、シルヴィアは客に対して直に相手をする方が好きなようだ。
「魔王業は、好きなやつがやればええんじゃ」
ダンジョンを見ながら、シルヴィアはしみじみと答える。
「オヤジのメンツも保てるけん、ええじゃろうと」
「いい判断だ。もちろん、土地の権利までは譲渡していないだろうな?」
「ぬかりはないけん。ちゃんと土地を貸して、みかじめ料をもろうとりますけん」
ドナとシルヴィアが、すっごい悪い顔になった。
「決めた。あたしも動く」
ん? 珍しく、シノブの闘志に火がついたらしい。
(第五章 完)
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