第38話 シノブとデート

「お前はいいのかよ、シノブ?」


「男性と一緒に文化祭を回るデートイベントなんて、めったにない。これは、挑戦する価値あり」


 ノリノリだな。シノブが楽しそうでよかった。


「オレでいいのかよ? オレって、たらしなんだろ?」


 どうもスゴロクの一件以来、オレはたらし認定されているような。自覚はないが。


「カズヤがちょうどいい。他の人だと、物足りない」


 なんでも、シノブの魔王としての素質は、他の魔王にも知れ渡っているらしい。そのため、声をかけられることはあっても、積極的にナンパはしてこないという。


 魔王って、かなりの根性なしなのか?


「あたしというより、ドナを恐れている」


 ああ、ドナの機嫌を損なえば、家だってお取り潰しとかになりそうだもんな。


「シノブ、回りたいところはあるか?」


 ひとまず、シノブが楽しめそうな場所へ。


「シルヴィアパイセンの場所」


「おう」


 あの、人だかりができているところだな。


「デートだろ? いきなり知り合いの店でいいのか?」


「見せつけたい」


 うわああ……。


「よお、シルヴィア」


「あー。いいなあ。シノブちゃん。カズヤさん、アーシとも一緒に回ってな」


「お、おう」


「約束じゃ。破ったら、承知せんけん」


 シルヴィアは今日、文化祭用の新作を作ってきたらしい。


 できあがったのは、お惣菜クレープである。しかも、中身はこってりした八宝菜だ。


「刀削麺からヒントを得た、平麺クレープじゃ」


 普通のかた焼きそばだと、麺の隙間から具材がこぼれてしまう。生地は、パリッとしている。カリカリにした餡が熱々の生地に溶けていくことで、モチっとした食感が楽しめるのだ。すぐに食べ切れるように、サイズを小さめにしているのもアイデアだろう。


「餡がモチッ、パリッとしてるなんて、初めての食感だな? 考えつくまで、随分苦労したんじゃないか?」


「おいしい。やっぱりパイセンは努力家」


 オレたちは、この料理ができあがるまでの過程を、食べながら想像した。その上で、感想を述べる。


 寮生のみんなは、決してシルヴィアを天才だとおだてない。シルヴィアが毎日毎日料理の腕を磨いているのを、ずっと見てきたからだ。シルヴィアの料理は、並々ならぬ鍛錬の結晶なのだ。


「ありがとうな。ふたりとも。ささ、他のところも回ってやらんと」


「そうだな。ごちそうさま、シルヴィア」


 シノブもペコリと頭を下げて、シルヴィアの店を後にする。


 あとは投げ輪やストラックアウトなど、アウトドア系のアトラクションを楽しむ。


「あの、カズヤ。お願いがある」


 ぬいぐるみ釣りで手に入れた景品を、シノブは抱きかかえている。


「なんだ?」


 シノブからの頼みを、オレは聞き入れた。


「わかった。じゃあ、行くか」




 オレたちは、フィーラのいるクラスに戻る。


「フィーラ、交代の時間」と、シノブはフィーラを仕事からムリヤリ開放した。


「おい、フィーラ。今度は、お前とデートするぞ」

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