第39話 今日は、お手伝い禁止

 強引に、オレはフィーラを連れ出す。


「どういうことでしょう、カズヤさん。デートだなんて」


「実は、シノブに頼まれてな。お前さんの相談に乗ってやってほしいと」


「わたし、悩みなんて」


「お前だけなんだよ。ダンジョンの目星がついていないのは」


 フィーラが、立ち止まる。


「わたしは、みんなのお役に立てれば。自分のことなんて」


「それだと、余計にユーニャさんを心配させてしまう!」


「……っ」


 やはりフィーラも、心得ているようだ。自分がはっきり目標を掲げないせいで、ユーニャさんが気をもんでいることを。


「だがそうはいっても、すぐには決められないだろ? 相談に、うってつけのやつがいる。会いに行こう」


 オレはフィーラを連れて、アンネローゼがいる二年生のクラスへ。


「あと、今日はお手伝い禁止な」


「はい」


「人のことは、人に任せるんだ」


 アンネローゼのクラスは、【サムライ茶屋】という催しをしていた。武士やニンジャの格好をした、給仕がいる。


「いらっしゃいませでござるですわ、ニンニン」


 ミニスカ網タイツニンジャのアンが、お茶とお菓子を持ってきてくれた。いつもはパーカーや包帯で顔を隠しているから、ニンジャ役はお手の物のようである。


「おう。ありがとうな。アン」


「いえいえニンニン。フィーラちゃん共々、楽しんでいってほしいでござるですわニンニン」


「待ってくれ。実は、相談に乗ってやって欲しいんだ」


「ニンジャはなんでもしっているでござるですわ、ニンニン」


 アンが、オレたちの席に座った。


「お前、ダンジョンというか、玄室を持っているよな?」


 オレがドナの部下として、ダンジョンの大家に着任したときのことである。アンネローゼはオレから、玄室を買った。今もそこを拠点として、自身の腕を磨いている。


「アンの観点からして、シーラにどういったダンジョンがオススメか、アドバイスしてやってもらえないか? お前の意見でいいんだ」


「まずは、フィーラちゃんがどうなさりたいのか、お聞きしたほうがいいのではないでしょうか……おっと、ニンニン」


 一瞬、アンはキャラを見失いかけていた。


「わたしですか? 自分がどうしたいのか、という質問が、一番困ります」


「それだけ、あなたが他人の顔色を伺いながら過ごしていらした、ということですわ。ニンニン」


 かなり、気に入っているな、その口グセ。


「ご自身で、よく思い起こしてみなさいな。あなたは今まで、自己決断をしたことなんて、ほぼなかったのでは? 誰かに言われるままに、動いていたかのような」


「はい。そんな気がしますね」


 さすがアンネローゼだ。よく人を観察している。ともに生徒会をしてるからか、フィーラの人となりをよく理解していた。また自立心が強いのもあって、控えめなフィーラを放っておけないのだろう。


 最初の相談相手として、適任だ。

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