第18話 フリーター、「ランチェスター戦略」で美少女魔王を救う
翌日、オレはアンをもう一度、シノブとフィーラの二人を相手にしてもらった。
「わたくしでは、二人に勝てませんわ。カズヤさん?」
昨日と同じブルマー姿で、アンは自信なさげに答える。
「いや。オレの言う通りにしてもらったら、いける!」
サムズアップで、オレはアンを励ました。
戦闘が始まる。
アンは相手に魔法で攻撃しようとしても、肉弾戦に持ち込まれて倒されてしまう。
オレとドロリィスは、遠くから戦局を見守っている。
「戦力を分散しているから、勝てないんだよな?」
「何が言いたい?」
ドロリィスが、首を傾げた。
「たしか、昔の軍隊の戦略も、学んでいるんだよな?」
「そうだが?」
オレは立ち上がって、アンに呼びかける。
「アン! 戦法を変えろっ! 召喚獣に乗れ!」
「……はい!」
息切れをしているアンが、召喚獣のオオカミを呼び戻す。オオカミにまたがって、指示を待った。
「そうだ! 一旦逃げて!」
「え!?」
一瞬驚いたが、アンは愚直に逃走する。オレを信じてくれたのだろう。
大丈夫だ。勝たせてやるからな。
シノブが、ロボの手にフィーラを乗せた。何をする気だ?
「おわ!?」
なんと、シノブはロボで、フィーラを投げ飛ばした。
フィーラが、アンのいる地点まで飛んでくる。
あんな戦法があったとは。
だが、好都合だ。
「アン、直進! フィーラとすれちがえ!」
「え……わかりました!」
頭を振って、アンがオレの指示に従う。
フィーラはすれ違いざまに攻撃を繰り出したが、大回りでアンは避ける。
遠くに飛ばされたフィーラは、着地と同時に方向を転換した。それでも、シノブとアンの直接対決には間に合わない。
「いい感じだ! フィーラとシノブを、そのまま分散させるんだ!」
「それでは、二対二で戦った方が……」
「いや。フィーラは強すぎる。後回しだ!」
アンは、シノブのロボに直進していく。
「ロボの機能を、停止させろ!」
「はい!」
なにも疑問に感じず、アンはシノブのロボに正面から突撃していった。
シノブのロボが、ふくらはぎに取り付けたポッドから、ミサイルを放つ。オオカミを撃ち落とそうと、シノブは応戦してくる。
だが、アンには一発も当たらない。
着弾地点を予測しているかのように、アンはミサイルをすり抜けていった。突進の足を止めない。ミサイルなど、まるで相手にしてはいなかった。
フィーラは、そうはいかない。ミサイルの爆撃に行く手を阻まれ、前に進めないでいた。
「うわ! ちょっとシノブちゃん危ない!」
「アンネローゼ先輩に当たらない!?」
無敵と思われた、フィーラとシノブのコンビネーションが乱れる。
アンが座学を得意としているというのは、間違いじゃないようだ。
だが、あろうことかアンは、シノブの射線に入った。何をする気なんだ、アンは?
ロボのミサイルが、アンのいる位置に向けられる。
「あなたの弱点は、これですわ!」
シノブの眼前に、アンは分厚い資料を見せた。いつの間に忍ばせておいたんだ?
「それは!?」
「図書館から拝借いたしました。いざというときに、役立つと思いまして」
ミサイルが、降ってこない。
「今ですわ、胸のコードを噛みちぎってくださいまし!」
アンが、オオカミに指示を送る。
ロボの胸部にある緑色に光っている球の周りを、オオカミが食いちぎる。
シノブロボの目から、光が消えていく。エネルギーの供給を絶たれて、シノブのロボが機能を停止したのだ。
「カズヤ、どうやったんだ?」
「分散している部隊を一対一に持ち込んで、こちらは全力で戦うって戦法があったよな?」
「ああ。ランチェスター戦略か!」
向こうの数が二に対して、こちらはどうしても一となる。召喚獣で数を増やしても、一のまま戦っていては不利だ。だったら、相手の数を分散して、こちらの数を集中させればいい。
それが、ランチェスター戦略というものだ。
「残りはフィーラさんですが、こちらの戦力が二つでも倒すのは難しいでしょう」
なにを考えているのか、アンはオオカミから降りた。丸腰なのだから、こちらが騎馬状態のほうが有利のはずなのに。
「融合!」
なんとアンは、オオカミと一体化した。
「わたくしにだって、プライドと意地があるのですわ! がおーですわーっ!」
今のアンは、ファンシーなキグルミを着ている。デフォルメされたオオカミの口から、アンは顔を出していた。
こんな奥の手を、用意していたとは。
「かわいくなっても、手加減はしませんから!」
「それで、構いませんわー!」
また、アンが魔法を繰り出そうとする。
いつものように、フィーラが魔法を打つ手首を掴んで、ひねった。
「がおーですわー!」
「えっ!?」
受け流したのは、アンの方だ。アンは自分からバク転をして、フィーラに投げ飛ばされる前に体勢を整えたのである。逆に、フィーラを横倒しにした。
「チェックメイトですわーっ!」
フィーラのノドに、アンが爪を突きつける。といってもキグルミの爪なので、ダメージは与えられないのだが。
「参りました」
キグルミの手をタップして、フィーラは負けを認めた。キグルミの爪とはいえ、これが実戦の魔物の爪なら死んでいただろう。
「やったな、アン!」
「カズヤさんの指導のおかげですわ」
いや、それは違う。
「オレは、アドバイスしただけだ。後は、アンが自力で戦った結果なんだ」
やはりアンは、強い。自信がなかっただけだ。相手を傷つけたくないから、手加減していたのだろう。
しかし、相手に危害を加えることなく負けを認めさせた。キグルミになることで。
そんな発想を思いつく時点で、アンは二人よりも強いと証明している。
「いいえ。この発想にたどり着いたのは、カズヤさんのアドバイスがあってこそですわ。ありがとうございます。カズヤさん」
「そうか。どういたしまして」
昼飯ができたとシルヴィアが呼んでいるので、今日の訓練はお開きとなった。
「よし、アンネローゼ! 次はワタシと勝負しろ! いい戦いになりそうだ!」
「もう勘弁してくださいましぃ……」
力こぶを見せるドロリィスに対し、アンネローゼは肩を落とす。
数日後、オレは例の召喚士の元を尋ねる。ダンジョンポイントの回収に向かうのだ。
一週間が早い。
だが、召喚士の様子はいつもと違う。なんか、自信がついたような。
「ここで待っていてくれ」
なんと、召喚士がマジックミラーの向こう側へ進んでいった。
召喚士自らが、リューイチさんとアヤナさんの前に立つ。アンデッドゴーレムを従えて。
ゴーレムの手の上に、召喚士は乗っかった。
その状態で、ゴーレムは召喚士を投げ飛ばす。
この戦法は、この間の。
後方にいるアヤナさんのところまで、召喚士は吹っ飛んでいった。
「まさか!?」
アヤナさんが、銃を構えた。
だが召喚士は、慣れた手付きで相手の銃を持つ方の手首を返し、アヤナさんをなぎ倒す。
応戦しようとしたリューイチさんを、ゴーレムが棍棒の鍔迫り合いで抑え込む。
「そこまで」
リューイチさんの後ろから、召喚士が銃口を突きつけた。
「負けたよ」
剣を捨て、リューイチさんが手を挙げる。
「この短期間で、やたら強くなってるな。あんた」
「気休めの世辞はいい」
「わかったよ。いやあ、まいったね。今週は赤字とは」
わずかな金と少量のアイテムを置いて、冒険者夫婦は立ち去った。
「ハア、ハア! 初めて、初めて勝った。冒険者に」
召喚士が、息を乱れさせながら腰を抜かす。銃を取り落とし、呼吸を整えた。
「よくやったじゃねえか、アン」
オレが後ろから声をかけると、召喚士がフードを取る。顔を覆っていた包帯も、ほどいた。
「よく、お気づきになられましたね?」
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