第42話 ピーターパン症候群ってわけじゃない

 オレは、シルヴィアとのデートを終わらせた。


「カズヤさん。あちらに、ドロリィス先輩がいますわ」


 校庭で、ドロリィスがくつろいでいる。ツィナーが取り巻きに、連れて行かれた。今がチャンスか。


「よし、行ってみよう」


 ドロリィスに、接近する。


「先輩、かなり際どい格好ですわ」


「うむ。これは透けないタイツだから、問題ないんだけどな」


 アンの指摘通り、ドロリィスはミニスカートを穿いている。スカートを穿く少年って内容の、芝居だったのか?


 しかし、この格好、どっかで……。


「ああ、思い出した。ピーターパンだっ」


「正解だ」


 だから、裾がギザギザのスカートだったのか。


「じゃあ、ツィナーはフック船長か」


 地球の娯楽をマネた演劇は、ヴィル女子校の名物なのだとか。ピーターパンのワイヤーアクションは、文化祭でも人気だという。


「うむ。この衣装だが、ミニスカートにも見えるから、ちょっとドキドキものなんだよ」


「百合タッチにアレンジしているんでしたよね?」


「そうなんだ」


 えらい、センシティブな話題になったな。


「そうか。そんなピーターパンに、聞きたいことがあるんだ」


 オレはドロリィスに、フィーラが抱えている問題を話す。


「むむぅ。フィーラのことだから、ピーターパン症候群ってわけじゃないのだろうが」


「子どものままでいたい、ってやつか」


 この症状は本来、精神的に成熟していない「男性」を表すものだ。よって、フィーラは当てはまらない。


「わたしも、別に学校を早く卒業しておとなになりたいわけではないんです。とはいえ、いつまでもこの学校にいたいとも、考えていません」


 フィーラも同様に考えているようだ。


「お前は、責任感が欠如しているわけであるまい。いざとなったら、彼女は自分で物事に対処するだろう。だが、彼女には別の要因があるみたいなんだよなあ」


「例えば?」


「寮の居心地がよすぎて、離れたくないとか」


 たしかに、あの寮は賑やかで手放し難い。


「わたしも自己分析してみたんですが、その感情が強いですね」


 せっかく、生徒たちが学年を超えて、打ち解けているんだもんな。あの環境からサれという方が、酷かも。


「とはいえ、ワタシもシルヴィアも、卒業してしまう。いずれはあそこを去るのだ。縁が切れるのか、仕方がない」


「でも、みなさんとのつながりは保ちたいですっ。せっかく、シノブちゃんというお友達だってできたんです」


 話してみてわかったが、フィーラは人に飢えているな。迫害された経験を、持っているからだろう。人に依存しがちだ。


 ムリに引き剥がせば、また悪化しそうである。


 どうすれば。


「そうだ。だったら、ウチの社員になるか?」

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