第16話 召喚士の問題を指摘する
着替え終わった召喚士が、部屋から出てきた。
「本当に悪い」
オレはお詫びとして、今回のダンジョンポイントはもらわないことにする。
だいたい週一回、オレはポイントを回収することになっていた。週一で、約一ポイントというペースで。
「気にすることはない。ではカズヤどの。今週のポイントだ」
「いいのに。取っておいてくれ」
「どうせ回収するのだ。もらってほしい」
では、遠慮せず。
「なんか包んでこよう。今、オレの管轄で道の駅を作っている。試作品ができたら、真っ先に渡しに来るから」
「楽しみにしておこう」
「これ、お近づきの印のおまんじゅう。道の駅で作った」
「ありがとう。ひよこまんじゅうか。これはいいものだ。いただこう」
そう言っていると、冒険者たちが現れた。例の夫婦だ。
「リューイチ、行くわよ!」
「OKマナカ。派手に決めようぜ!」
召喚士のアンデッドゴーレムと冒険者二人が、ボカボカと殴り合う。
ひよこまんじゅうを二人でつつき合いながら、戦局を見守る。
やはり、アンデッドゴーレムは負けてしまった。いい線いっていたのだが、詰めが甘い。
「やっぱり、ここは狩りやすいな」
「そうね。また来ましょう」
戦利品を得て、冒険者たちは立ち去っていく。
「また、負けちまったな」
「ここで特訓をして以降、一度も勝てていないのだ」
苦労しているんだな。
「ちょっとすいません。お話いいですか?」
ダンジョンを出て、オレは冒険者たちを呼び止めた。
「なんだ!? 民間人がいるなんて聞いてねえ!」
「見られた! 処理しないと」
冒険者夫婦は、身構える。
「怪しいものではありません。オレは、
オレは、名刺を差し出す。
「このダンジョンの……魔王!」
名刺に書かれた肩書を見て、男のほうが目を丸くした。
「つまりあなたが、ここの大家ってこと?」
「そうなりますね」
オレは素性を明かし、
「ああ。お前さん、あのクソババアの親戚なのか」
「アラフィフをババア呼ばわりしないの。私だって、似たようなものなんだから」
リューイチさんを、マナカさんがヒジでつつく。
「でも、会長によく似ているわ」
「たしかに。大胆なところもな」
二人は自己紹介をする。
「お二人は、いつ頃から冒険者に? きっかけは」
「副業だ。本業は、印刷会社に務めるリーマンなんだ。資産運用がうまくいって安泰なんだが、刺激が欲しくてな」
二人はもう、老後や子育てを気にしなくていいほど、資金は貯まっていた。
「リモートワークでもいいが、どうせならバカみたいな仕事がしたいって思ってな」
奥さんのマナカさんは、元々林業のかたわら冒険者をしている一家だったらしい。リューイチさんを誘ったのをきっかけに、二人は結婚した。子どもはひとりいて、奥さんの家族が預かっているという。
「どうした?」
「いえ。冒険者っていっても、ゲームキャラと違って、生きているんだなーって」
オレが感想を言うと、リューイチさんは笑った。
「そう感じてもらえて、うれしいぜ」
「あなたと私たちは、敵だけどね」
それはそうと、とオレは本題を切り出す。
「あの、クライアントが、このダンジョンのマスターが、アンデッドゴーレムを強くしたいと言ってきています。ポイントや、弱点などがあったら教えていただけると」
「敵に聞くか、それ?」
「なんか、戦闘データ面でヤバいらしくて。ボスにせっつかれているそうなんです。代わり映えがしないって」
召喚士が悩んでいることを、そのまま伝えてみた。
「強くなったら、その分倒したときの報酬もデカくなります。先方も、そのように検討すると申し上げています」
「だったら、教えてあげたら? 歯ごたえのある敵のほうが、面白いわ。別に私たち、ダンジョンでやられてもセーフティがかかるから」
冒険者は瀕死の重傷を負った場合、ダンジョンから自動的に吐き出される。歩いて帰れるギリギリの体力を残されて、締め出すのだ。
「わかった。まず召喚したやつに言っておいてくれ。アンデッドだって、耐久性がいらないわけじゃないからなと」
どうも、アンデッドであるという要素を活かし、不死特性に頼り過ぎなのでは、とのこと。
「それと、攻撃力が低いのが気になるわ。戦う度に身体は大きくなってきているんだけど、力がそのままなのよ。大きくなっても骨の塊だから、攻撃も軽いのよね」
図体だけがデカくなって、動きが緩慢になっていることを指摘された。
「ありがとうございます」
「がんばれ、って伝えておいてくれ」
それでは、と、冒険者夫婦は車に乗り込んでいった。
「だとよ」
オレの書いたメモを、召喚士は食い入るように見ている。
「感謝する」
「じゃあ、がんばって」
帰宅後、オレはドナと夕飯を取った。今日はカレーである。
「冒険者と、直接会話をしたのか」
「ああ。いけなかった、かな?」
越権行為だっただろうか。ドナが起こっていなければいいけど。
「お前が人類に敵対するタイプの魔王なら、『情が移って攻撃ができなくなるぞ』と注意するところだ。が、お前は戦闘要員ではないからな」
オレを咎めることもなく、ドナはカレーをおかわりした。
「ところでドナ、道の駅開発は?」
「順調に進んでいる。見学に来るといい」
一応、名物料理などの試食もしていいとか。
「楽しみだ。で、女子寮の方は」
「仮住まいにしてもらっている。実際に住んでみないと、気になる点などが出てこないからな」
翌日、女子寮改め道の駅予定地に到着する。
オレはシルヴィアと一緒に、元校舎だった宿泊施設へ入った。転送装置などを見せてもらう。
「この紫色に光る紋章が、転送門なんだな?」
空き家の中央に、教室一つ分の紋章が描かれていた。ドット絵の、インベーダーみたいである。
「そうじゃ。ちなみにこの紋章は、アーシの一族の紋章じゃ」
たしかによく見ると、デフォルメされたシルヴィアに見える……かも。
つまり、シルヴィアがいれば作動するらしい。誰でも扱えるわけじゃないんだな。
「他のメンバーは、外か?」
「そうじゃ。作業の手伝いが終わって、今は戦闘訓練をしとるけん」
ここはドナに任せて、オレは訓練の見学に行こうかと。仕事の話ばかりなので、少々疲れてしまった。
運動場では、シノブのロボと、ライオンくらいでかいオオカミが戦っている。
オオカミは、アンの召喚獣のようだ。
アンの召喚獣は、若干小さくなっている気がした。それでも、身体の大きなシノブのロボ相手に、健闘している。
「すごいです、アンネローゼ先輩! 戦闘持続時間が、かなり上がっています」
「ありがとうございます、フィーラさん。でも、これじゃダメなんです!」
アゴに流れてきた汗を、アンは手首で拭う。召喚するだけと言っても、体力は奪われていくらしい。
「ムチャしすぎ。アン先輩は休んで。フィーラ、相手して」
「よろしくお願いします」
フィーラは、ロボ相手に構えを取った。
「もう一戦だけ!」
アンが、戦闘に入る前の二人に懇願する。
「あともう一戦だけ、お付き合いくださいませ」
「そこまで言うなら」
シノブとフィーラが、アンの気迫に圧倒された。
「でも、ホントに無理をし過ぎ。フィーラ。いざとなったら、止めて」
「わかりました。では、始めてください」
フィーラの合図で、また戦闘が始まる。
「ドロリィス、どうだ?」
石段に座って水を飲んでいたドロリィスの隣に、腰掛ける。
「アンの動きはいいな。これなら、汚名返上と行けるんじゃないか?」
「汚名?」
オレが尋ねると、ドロリィスは困った顔をした。「話していいものか」と、思案しているみたいに。
「アンは……いわゆる落ちこぼれなんだ。後輩にさえ遅れを取るほどの」
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