第7話 コンビニ魔物退治の顛末

 なんか既視感がある子だなと思っていたが、このシノブという子だけは日本出身だという。


「スパウルブスは、地球外星人の探索を目的とした、地球産の要塞です」


 月の裏側で極秘裏に開発された非合法要塞だという。


「船内にいる日本人の両親の間に、シノブさんは生まれました。しかし、宇宙生まれの宇宙育ちです」


 シノブは一二歳で、船内の大学を卒業した。卒業過程で、二足歩行の戦闘ロボットを作成したらしい。


「いわゆる、天才少女だな」


「その天才ぶりが災いして、彼女はここに来ました」


 ロボがオーバーテクノロジー過ぎて、彼女はエイリアン呼ばわりされた。ロボットもろとも、学会追放処分にされかけた。


「要塞を追われた彼女を、ウチが面倒を見ることにしました。ロボットごと」


「お待ち下さい。彼女に魔力がないのでしたら、ヴィル女に入学する資格などは」


「ロボットの方が、非常に高度な魔力を潜在していました。つまり」


 本人に魔力はない。が、「ロボを通して魔力を行使している」可能性があるという。


「その調査も兼ねて、わが校に通っていただこうかと」


 聞いていると、いろんな人がいるなあ。


「四人目に紹介していただいた、フィーラ殿の出身は?」


「異世界ダリウスです」


「ああ……よくわかりました」


 ドナが、ソファにもたれる。


「どんなエリアなんだ?」


「排他的な地方だ。地球からの来訪者も、受け入れないだろう」


 異世界でも、偏見のない地方もあれば、異分子を受け入れない地区もあるという。


「その高い魔力のせいで、家族から疎まれ追い出され、魔物避けのイケニエにされました。一番学内でも扱いが難しく、教師も生徒も持て余しています。いい子なので、いじめられたりはしないのですが」


 どっちみち、どこにも居場所はないと。


「ヴィル女は、実力主義です。能力さえあれば、どんな境遇であろうと受け入れます。とはいえ、元人間の子どもたちもいます。なので、魔族ばかりの学校ではお互いに辛かろうと」


 偏見やいじめなどは発生していないが、私的な空間まで共同生活となれば、落ち着かないだろうと。

 彼女たちの更生も、寮の目的としているらしい。


「だったら、煩悩まみれな地球では、余計に力を持て余すのでは? 集中できませんよ」


 ドナが発言をする。


「地球は魔力を出せない空間です。力を制限された場所なら、彼女たちも落ち着くかと」 


 また、地球の持つ豊富な煩悩に耐えることも、課題に含まれているそうだ。


「わかりました……それはそうと、お前はどうして話に加わろうとしないんだ?」


 事務所から退席しようとするオレを、ドナが呼び止めた。


「だって女子校で、女子寮でしょ? オレには、関係ないかなって」


 オレなんかが関わったら、セクハラで訴えられそうだ。

 せっかくドナは、地球で成功しようとしているってのに。オレが、水を差すワケにはいかない。オレのせいで、フイにしてほしくないのだ。


「それが、男性のご意見も聞きたいと」


「ええ……」


 非モテの頂点みたいなオレに、何を聞きたいというのか。


「それならなおさら、ゴメンだね。ほかを当たってくださいな」


「待たないか、カズヤ!」


 ドナがオレを呼び止めると、ベイルさんが急に立ち上がった。


「お待ちになって。あなたがカズヤさんとおっしゃるの?」


「そうですね」


 振り返って、オレはそう答える。


「実は、男性というより、あなたにおうかがいしたいと」


「オレに会いに来たと?」


「はい。その節は、我が生徒を助けていただいて、ありがとうございます」


 待ってくれ。オレがなにをしたっていうんだ?


「我が生徒の一人が、あなたに助けてもらったのです」


「オレが、ですか?」


 自分を指さして、オレはベイルさんに尋ねた。


「はい。コンビニで」


 ああ。オレがバイトをやめるきっかけになった、あの事件のことか。




 

 

『いいですかー。サスマタで犯人を制圧するって発想がそもそも間違いなんですよー』


 オレはコンビニ主催の防犯訓練で、サスマタの正しい使い方を学んだ。


『では山本ヤマモトさん。店長と一緒に、ボクを抑え込んでくれますかー?』


 オレと店長で、サスマタを使ってコーチを抑え込む。

 壁に追い詰めたのに、コーチは壁に手をついただけで押し返してきた。

 あっという間に、拘束が解けてしまう。

 ヒゲをはやしたコーチは、軍隊や警察向けに戦闘術を教えている本格めの人だったな。


『あのですねー。湾曲したサスマタを相手の腹に押し込むことは、戦闘のプロでも難しいんですよー』


「なんだよ。サスマタの使い方なんてウソじゃん」


『そうなんですよー。たいていのサスマタ使用法は、犯人側の心理を想定せずに教えているんですー。ガチめに攻め込まれたらー、やられちゃいますよー。実際コンビニってー。強盗を抑え込めてないじゃないですかー』


 うまく抑え込んだとしても、突起をひねられて脱出されるとか。


『現代の形状も、実用的ではありませーん』


 昔のサスマタは、攻撃方向の周辺にトゲがついていた。相手が掴んで脱出しないための細工である。今は、そのトゲがない状態で使用せざるを得ない。だから、脱出されるのだ。


『だから、フルスイングで殴ったほうが早いですー』


 優しい顔をして、コーチは思い切りサスマタを振り下ろす。

 ブン、と風を切る音が鳴る。 


『もしくは……』

 


 ヘトヘトになりながら、オレは業務を続けた。帰る前に、スーパー銭湯に寄ろう。

 駐車場で、女子高生が化け物に襲いかかられているじゃないか。足元には、コンビニで買ったアイスが潰れていた。

 オレは店の外に出た。

 女性を襲っていたのは、どう見ても怪獣に近い。特撮に出てくる感じの。

 無我夢中で、オレはサスマタを振り回したのだ。フルスイングで。


「ちくしょう、ビクともしねえ!」


 何度も殴っているのに、魔物は微動だにしない。こっちの攻撃法も、ウソだったのか?


 いや、相手が硬すぎるんだ。だったら……。

 再度コーチの教えを守って、サスマタを縦方向に構えた。


「たしか、思い切り突いてやればいいんだっけ」


 ノドとみぞおちに、一撃を喰らわせる。


「んがああああ!」


 怪獣が、逃げていった。


「あんたもさっさと逃げろ」


 オレは、腰を抜かしている少女に声をかける。手を貸してやろうとも思ったが、事案が発生しそうなのでやめた。


 声にビクッとなった少女が、立ち去る。


 これでいい。さっさと業務に戻ろう。



 しかし翌日、オレはバイトをクビになったのだ。 

 ああいった魔物は、オレにしか見えない。

 なので、オレが少女を襲っていると思われてしまったのである。




 

「けど、その人はオレの名前まで把握できないでしょ?」


「エプロンに引っ掛けていた名札を見て、覚えていたのです」


 あの一瞬で、わかるもんかねえ? でも魔族ってんなら、ありえるかも?


「その事情もあって、ぜひともカズヤさんにも協力していただきたいと」


 なーんか、キラッキラした目で見つめられてるんだけど。


「はあ。わかりましたよ。ベイルさん」


 こんな笑顔を返されては、オレも引き受けざるを得ない。


「ところで、ベイルさん。地球で探すのは、いいんですよ。けどそもそも、ヴィル女ってどこにあるんです?」


 通いになるんなら、ヴィル女の近くの方がいいだろう。


「ご安心を。転送門から通えますので。そのスペースさえあれば、どこからでも通学できますわ」


 異世界同士は、つなげることができるそうだ。転送門ってのを使えば、異世界同士を行き来できるという。


「世界同士は接続できるのですが、学校は共通で授業を受けてもらおうと」


「リモート不可?」


「いいえ。基本はリモートです。通学の時間がもったいないので」


 そうなんだ。


「共通で受ける授業は、戦闘訓練くらいです。学校行事ですとか」


 文化祭とか修学旅行とかは、一緒に活動するらしい。


「では、さっそく物件を……何の音だ?」


 ドシンドシンと、激しい物音がした。

 オレたちは外に出る。


「あのあの! ブヒートくんを飼える寮があると、聞いたんじゃが?」


 少女が、屋台を引く巨大イノシシを引き連れていた。

 この子は確か、シルヴィアだったか。

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