第三章 フリーター、美少女魔王たちと寮の候補地を視察をする

第12話 私服の魔王たち

 数日後、アンネローゼも合流して、本格的に寮の予定地を探すこととなった。


「お会いするのは、始めましてですわね。わたくし、アンネローゼ・ヴィルヌーヴ・ファイーファンといいます。アンとお呼びください」


 アンも揃って、五人全員とようやく対面する。


 ファイーファン王家のご令嬢は、メンバーの中でもっとも背が低かった。この娘が一年生と言われたら、おそらく信じてしまうだろう。


 背の順は、ドロリィスが一七五センチと最も高い。

 次に高いのが、意外にもシノブだった。ロボに乗っているからわからなかったが、一六五センチである。

 それから中央に、一六〇センチのシルヴィアが続く。

 一五六センチのフィーラの目線が一つ下に、一五〇センチのアンといった順である。 


 魔王ドナはドロリィスとシノブの間で一六九センチ。

 オレはドロリィスより大きい一七七センチだ。

 一番でかいのは、秘書のイアロさんだが。


「みんな、気合が入っているな」


 入寮者五人は、全員私服姿だ。


「カズヤ様、似合いますでしょうか?」


 アンネローゼの服装は、おとなしめのワンピースである。制服はスマホ越しで見ているから、学校でもシックな感じなんだろうなと想像できる。下は、白いストッキングだ。


「商売用の衣装じゃないのは、久しぶりじゃ」


 シルヴィアは、動きやすいホットパンツルックだ。オレンジのニーハイが、いい感じである。


「なんだか、カズヤと被っているみたいだな」


 ドロリィスは半袖ブラウスと、ロングのチノパンだ。オレの格好に近い。


「ペアルックみたいじゃのう?」


「うるさい!」


 オレとドロリィスの服装センスを、シルヴィアが茶化す。


「それにしても、見事だよなぁ」


 おそらく、もっとも意外性のある格好は、間違いなくシノブだ。

 パフスリーブのブラウスと、短いデニムのタイトスカート、黒タイツである。手首には、ジャラジャラと刺々しい腕輪をしていた。背が高く見えるのは、底の厚いブーツのせいだったか。

 いわゆる地雷系である。私服になると、こんなに気合を入れてくるのかと。これでエプロンをつけたら、まんまメイドさんになりそう。


「地球で流行しているファッションを検索して、今日届いた」


「シノブちゃん、今日のために張り切っていたんですよ? 殿方と一緒なんだって」


 フィーラの口を、シノブが慌てた様子で塞いだ。


「お、おう」


 一人だけ、かなり場違いな少女がいる。フィーラだ。


 フィーラはエプロンドレス姿で、ファンタジー世界の町娘風のルックスである。


「変でしょうか? 街へ繰り出すというので、それらしい衣装を選んだつもりなのですが……」


 ここは現代地球なのだが、一人だけゲーム世界の住人みたいなのだ。


「シノブちゃんにも、それで行くの? って首を傾げられました」


 フリルドレスの先を、フィーラはつまむ。


「いったい、誰のセンスなのか?」


「おおかた、生徒会長じゃろ? あいつは発想が、ババアなんじゃ」


 シルヴィアが、肩をすくめた。


「あの生徒会長のことじゃから、こんなことじゃろうなと思うとったわ」


「ちょっと、シルヴィア先輩。会長のことを悪く言うべきではありませんわ」


「アーシがホンマに悪口を言うときは、ババアの前に『クソ』がつくけん」


 アンの注意に対して、シルヴィアが鼻を鳴らす。


「カズヤさん、わたしの格好は場違いなのでしょうか?」


「ギリ『七〇年代風』っていえば、通用するかなって」


「七〇年代ファッションというのが、わたしにはよくわからないのです」


「まあ今度、先輩たちに服を見てもらえよ」


 他の寮生たちも、オレの意見に賛成してくれた。

 地球で当時流行っていたファッションなら、この娘にも似合うかも。

 化粧までして、そばかすを消している。

 そばかすそのままで自らの素材を活かしているフィーラとは、対照的だ。


「このミニバス、クラシックなデザインでかわいいですわ!」


 今回乗り込むバスを見て、アンがはしゃぐ。


「六六年式だ」


 五人全員で移動ができるように、ドナはバンを用意していた。


「これ、欲しかったんじゃあ。キッチンカーとして使いたかったんじゃが、中古でも最低二〇〇万もするから手が出せんかったんじゃ」


 パンパンと車体を撫でながら、シルヴィアがうらやましがる。


「いいな。特撮で侵略者が乗ってたヤツだ」


 ドロリィスの感性は、独特だ。


「魔王が乗り込むには、ふさわしいものでなければな」


 ドナも満足げだ。


「素敵。このボディの丸っこさ、参考になる。魔王ドナ、運転してはダメか?」


「地球の免許がなかろうが」


「バイクなら取った」


「じゃあ、まだダメだ」


 シノブが、ドナにたしなめられる。


「こんな高い車に、わたしなんかが乗っていいんでしょうか?」


 フィーラが、遠慮気味にバスと距離を取った。


「構わんさ。このために買ったんだからな」


「魔王ドナ・ドゥークー様は、一族全員が倹約家と聞きました。我々のために、大きな出費をなさって」


 たしかに、今日の朝飯もメザシと味噌汁、漬物である。


「ドナは誰かの為なら、喜んでカネを払うんだぞ。だから、気にしなくていいんだ」


「カズヤのいうとおりだ。ささ、乗った乗った」


 ドナが、生徒たちをバスへと促す。


「さあ、参りましょう。どんな寮が見つかるのか、今から楽しみで仕方がありませんわ」


 ウキウキのアンが、白いバンに一番乗りをした。


「相変わらず、姫様の好奇心にはたまげるのう」


 シルヴィアが、二番手で乗り込む。三番手はドロリィスだ。


「行きましょ。シノブちゃん」


 フィーラが腕を伸ばして、シノブに手を差し伸べる。


「う、うん」


 気後れしながらも、シノブはフィーラの手を握り返した。

 シノブとフィーラが、二人揃って最後尾へ。先日は派手なドツキ合いをしていたのに。

 ドナが助手席に乗って、オレはアンの隣だ。


「今日は、ベイルさんはいないんだな?」


 ベイル校長は、本日同行していない。


「我々の自主性や、センスなどを見定めるとのことですわ。学生たちの意見を聞いて、そこから判断するらしくて」


 アンが、校長の意見を代弁した。


 イアロさんの運転で、バスが動き出す。イアロさんは美人秘書の姿をしているが、元はスケルトンで属性はヴァンパイアレディだ。 


「平日の昼間だが、学校はいいのか?」


 いくら授業はリモートでいいからって、平日にあちこち歩き回るなんて。


「構いません。みなさん、【アバター】を使っていますの」


 アンが、説明してくれた。


「アバターとは?」


「魔王には、本体とは別に【依代】があるのです」


 体を分裂させて、自分の代わりに行動させることができるらしい。


「その子たちが授業を受けてくれるので、我々は自由に行動できますの。いわゆる、今流行りのリモート授業という仕組みですわ」


 オレの知っているリモートと、なんか違う……。そんなんでいいのか、魔王養成学校って。


「理にかなっているといえば、そのとおりだ。アバターを複数所持していれば、座学の間に戦闘訓練を受けることができる」


 なんか小学生向けのマンガに、そういうロボットがいたよな。自分そっくりの。


「記憶とかは、アバターを体内に戻せば習得できる」


「すごいな、魔王って」


「ヴィル女は、効率化を重視しているのだ。基本的な勉強は、アバターにやらせる。本体には魔王業務に勤しんでほしいというのが、ヴィル女の方針だからな」


 リモートできるところは、しましょうってか。


「そんなんで、授業内容が頭に入るのか?」


「サボタージュしている者がいれば、試験のときにわかる。予習復習も大事だからな」


 ドナが言うと、ドロリィスが青ざめる。


「ドラちゃんは復習が苦手やけん」


「うるさいっ。あとドラちゃんって言うな!」


 シルヴィアとドロリィスが、からかい合う。


「そういえば、アン。依代があるんなら、不動産事務所にも顔を出してくれればよかったのに」


 せっかく全員が合う機会があったのだ。


「そういうわけにも、参りません。大事なゲストを相手に依代で対応などは。バイト先でも依代は失礼に当たるかなと思いまして」


 マジメだねえ。さすが魔王候補といったところか。

 目的地に到着した。


「やけに古ぼけていますね」


 不思議な光景を見るような表情で、フィーラが建物を見上げる。


「これは、廃校?」


 シノブが、正解を言い当てた。


 オレたちがたどり着いたのは、山奥の廃校である。

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