第13話 入寮者五人で予定地視察、時々水着回

 山奥の廃校に、オレたちのバスが停まった。


「昭和の割に、でけえのう」


 シルヴィアが、ため息をつく。

 三階建ての木造建築だ。建て直したのか、香りもいい。


「耐震基準は満たしている」


 ヴィル女からの連絡がなければ、小さいサーバー管理会社に渡る予定だったらしい。


「取っといてくれたんか。それは、申し訳ないのう」


「別に構わない。そちらは結局、別の場所がいいと言ってきた」


 つまり、買い手がつかなかったと。


「グラウンドや、畑もあるかいね。これなら、ブヒートくんも走り回れる」


 打ち捨てられた中庭の土を、シルヴィアはすくい取った。


「気に入ってもらえたか?」


「満足じゃ」


 外の様子を見て、シルヴィアはかなり満足した様子である。


「うむ。グラウンドもあって、トレーニングには申し分ないな。フィーラ、日頃の成果を見てやろう」


 ロドリィスが、さっそくひとっ走りした。


「はい。お供しますっ」


 フィーラも続く。


「おお、すげえ」


 ドロリィスのスピードに、フィーラも追いついている。


「やるなあ!」


「でも、限界ですぅ」


 並走はここまで。一周回ったあたりで、徐々にフィーラのスピードが落ちていった。


「はあ、はあ。とにかく、先輩としての威厳は保ったな」


「ぜえぜえ、さすがですドロリィス先輩」


 駐車場にするか迷ったが、一旦そのままにしてあるそうだ。 


「ドナさん。たしか運動場の土は、畑には適さないんじゃね?」


 続いてシルヴィアは、ドロリィスが踏みしめた後の土を指でつまむ。


「ああ。雨が降っても地盤が緩まないように、吸水率を悪くしているらしい」


 同じ原理で、甲子園の土でも作物は育たない。


「まあ、こんだけ広くても持て余すけん」


「山に囲まれていますから、覗きなどの心配もいりませんわね」


「ほうじゃね」


 シルヴィアとアンが、うなずき合う。

 外回りの様子は、こんな感じだ。

 さっそく、中に入ってみる。

 最も気になる部分だったのか、アンは共同トイレに直行した。


「お手洗いだけが、妙に新しいですわ」


 共用トイレに入ったアンが、感想を述べる。


「カビ臭さもありません。ニオイなども気になりませんわね」


 清潔感のあるトイレに、アンは満足げだ。


「水回りは、念を入れてリフォームした。今どき汲み取り式のトイレなんぞ、誰も使わんからな」


 再び廊下に出て、みんなで探索を始める。


「なんだか、いつも利用している教室より、やや狭く感じますわ」


「教室の壁を壊して、廊下を広くした」


 車椅子同士でも、すれ違えるようにしたらしい。バリアフリーというやつだ。


「だから、エレベーターも設置なさったんですわね?」


 エレベーターで、三階へ上がった。


「うむ。高齢者が相手になる場合もあるからな」


 どんな利用者にも、対応できるようにしている。


「フィーラ、今のところどんな感じがした?」


 オレは、最年少のフィーラに尋ねてみた。


「家というより、旅館や会社に近いですね」


 フィーラが、正直な感想を述べる。


「一言でいうと、落ち着きません。ここにいると、なんだか、みんなのお世話がしたくなってきますよ」


 たしかに様々な用途に使える反面、居住感がない。


「空調も、添えつけなのですわね?」


 天井に直接、エアコンが取り付けられている。このあたりも、オフィス気分が満載だ。


「図書館が、一番涼しい」


「本を保存するため、一定の温度を保っているのだ」


 シノブが部屋の探索そっちのけで、分厚い学術書を読みふけっている。ずっと根を張ってしまう勢いだ。


「立ってください、シノブちゃん。他の部屋も、見て回らないと」


 地べたにあぐらをかいているシノブの両脇を、フィーラが抱えあげる。


「わたしは、この部屋に住む。紙を直接指で触る感触、久しく忘れていた」


「そこは共有スペースであって、自分の部屋じゃありませんっ」


 ムリヤリ、フィーラがシノブを立たせる。


「ああーっ。もうちょっとだけー」


 落とした本を、シノブはあたふたと取り返そうとした。


「ドロリィスさんもですっ。マンガ本から手を放してっ」


「七〇年代のマンガは、センセーショナルな内容ばかりだな。巨匠でも、マイナーなジャンルを描いていて、実に興味深い」


 そんな昔から、ここは建っていたのか。


「炊事場は、家庭科室を利用している」


 ガスなどはそちらを通して、各部屋で料理ができるようになっているそうな。共同のくつろぎスペースとして、活用できるという。


「なんか持ってきてやったら、よかったのう。お料理するのに」


「そうですね。お手伝いしましたのに」


 シルヴィアとフィーラが、残念がる。


「いや、いいだろう。使うかどうかわからないんだ」


「まあ、そうじゃのう。スーパーも、近くにないけん」


 手持ち無沙汰になったシルヴィアが、家庭科室から出た。


「飯の話をしていたら、腹が空いたの」


 シルヴィアが、お腹を抑える。


「質問なのですが、デリバリーの所要時間などはわかりますか?」


「頼んでみればわかる」


「わかりました。ではみなさん、ご希望を」



 それぞれが、昼食を注文した。



「かなり時間がかかるそうですわ」


「では風呂でも入るか? うちの最大のポイントだ」


 入浴は、屋外にあるそうだ。


「まあ、露天風呂ですわ」


 三階の窓から外を見たアンが、驚きの声を上げた。


 プールをそのまま、温泉施設に利用している。半分に仕切って、片方は屋内風呂と洗い場に。もう片方は露天の岩風呂だ。木々に囲まれて、目隠しも可能である。


「今から入れるぞ」


 イアロさんが、準備してくれていたらしい。


「入りますわ!」


 アンが、服を脱ぎだす。


「おいおいアンネローゼ、男性もいるんだぞ!」


「あら、そうでしたわ」


 アンは、更衣室へと消えていく。


「替えの服はあるのか?」


「アイテムボックスに、少々」


 さすがにオレの前で全裸とはいかないので、スクール水着を着用するという。


「やたら行動力が高いな」


「今日は視察以外に、なにも予定がございません。みなさんも入りましょう」


 どうもアンは、珍しいものが好きなようである。


「でも、お風呂は入ってみたいかも」


「そうですね」


 シノブとフィーラも、更衣室へ。


「ブヒートくんを入れられるかどうか、チェックせんと」


 シルヴィアまで。


「ドラちゃん、あんたも来んさいな。水着でええけん」


「わかった! 全員水着は持っているな! だったら入ってやる!」


 結局、全員で入ることとなった。


「カズヤ、お前もだ」


「オレも?」


「当然だろう? いざここが買い取られたとき、水回りを管理するのはお前の仕事だ」


「ここを、一人で掃除するのか?」


「そこまでは言わん。ちゃんと業者はいる。だがトラブル時はお前が駆けつけるんだぞ」


 まあ、それもよほどのことらしいが。


 オレは一人、男子更衣室に入って海パンを身につける。


 寮生全員が、スク水で内湯に浸かっていた。


「ああ、カズヤさんもとっとと入らんね。JKとお風呂にはいるっちゅう貴重な経験ができるけん」


 それをやったら、オレは事案で捕まっちまうんじゃ?


「私が保護してやるから、安心するがいい」


 そういうドナは、黒のビキニである。


「ずっとバスの中におったけん、なまっとった身体がほぐれていくわい」


 風呂のヘリに腕を乗せて、シルヴィアが「ほう」と息を吐く。

 浴槽も、ちゃんと木枠になっていた。床も、すべられない素材を使っている。会社や別荘よりは、温泉旅館やスーパー銭湯として売り出したほうがいいかも。


「寮生の裸が、気になるか?」


「いや。ジロジロ見るわけにはいかんだろ」


「ほいじゃ、露天の方へ行こうかね」


 ムッチムチの身体で立ち上がり、シルヴィアは露天風呂の方へ。


「お供します」


 全員で、外にある岩風呂へ。

 乳白色の湯は、入浴剤の白さを出していない。これは、ちゃんとした温泉だ。やっぱり旅館で売り込もうぜ、ドナさんよぉ。 


「もぞもぞ……」


 シノブの眼前に、スク水が浮き上がった。シノブの肩に、スク水のヒモがなくなっている。

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