第30話 父娘ケンカ
「んなんじゃあ、くそオヤジがぁ!」
腰に手を当てて、シルヴィアが初老の男性に怒鳴り散らす。
「黙れや小娘が!」
対する男性も、腕を組んでわめいていた。初老の男性は袴を着ていて、胸からは入れ墨が見える。東洋の色のついたものではなく、外国のマフィアが彫っているようなラテン語だ。異国のヤクザを思わせる。
「何事なんだ、シルヴィア?」
「ああ、コイツはアーシのオヤジなんじゃが」
父親だという人物を、シルヴィアは親指で差す。明らかに父を紹介する仕草ではなかった。
「親を指差す娘がおるかい!」
また、初老の男性が怒った口調で叫んだ。
「久しいな、ギンヤンマのドゥー。何年ぶりか?」
「ワシをそう呼ぶのは、あんたドナ・ドゥークーかえ? あのおチビちゃんが、こんな大きゅうなって」
さっきまで鬼のような形相だった男が、急に大人しくなる。
「あの、オレはカズヤといいます。事情を説明願えますか?」
なんとか、状況を把握しておきたい。
「おうおう。ワシはシルヴェリオ・ドゥーイエラ。シルヴィアの父親じゃ」
「なんとお呼びすれば」
「ドナと同じように呼んだらええ」
シルヴィアと同じ「シルバー」の名を冠しているため、オレはドナと同じように「ドゥー」さんと呼ぶことにする。
「ツボを振る手さばきと、敵を俊足で倒す神速の姿から、『ギンヤンマのドゥー』と呼ばれている」
ドナが、ドゥーさんを説明してくれた。
「そのドゥーさんが、シルヴィアとなにを揉めているんです?」
「どないもこないもねえわ! ワシがビジネスしようとしていたときに!」
どうもドゥーさんは、シルヴィアがユーニャさんに領地を分け与えたのが気に食わないらしい。
「よりにもよって、商売敵にテリトリーを預けおって! 勇者相手じゃったら、手が出せん!」
「そないされる思うて、先手を取ったんじゃ」
「テーマパークにして大儲けしようという計画が、台無しじゃ!」
「闇カジノのなにがテーマパークじゃ!」
「オトナのテーマパークじゃろうが、賭場は!」
まるでギャンブル狂の発言だなあ……。
「あのーその賭場というのは」
「よう聞いてくれた」
ドゥーさんは、話す気満々だ。
対するシルヴィアは、「聞かんでええよ」とオレに耳打ちしてくる。
「賭場っちゅうんは、スゴロクじゃ。あんたも地球人なら、あのゲームのスゴロクいうたらわかるんじゃろ?」
「……あーっ。スゴ、あーっ」
オレは、某有名なRPGのスゴロクを思い出した。ドはまりしたのが、懐かしい。
「わかります。あれ、移植版では実装されていないんですよね?」
「そうじゃ! あのRPGいうたら、アレじゃろうが! ワシはあれが実装されてない現状に切れ散らかして、リアルで作っちゃることにしたんじゃ」
それが、賭場だと。
たしかあれは、カジノのアトラクションじゃないのだが。
「そのスゴロクフロアを、今ユーニャちゃんが占領している場所に作ろうとしたんじゃ」
「うーん。そりゃあ怒るかな」
「カズヤさんっ、あんたはくそオヤジの味方するんか!?」
シルヴィアが、オレに凄んできた。
「違うっての。ただ、あのスゴロクはそれだけ魔力があるんだよっ」
後継機の移植版で実装されていないだけで、クソ移植呼ばわりされるほどに。
「とにかく、すぐに図面武闘会じゃ。あの領地を巡って!」
「望むところじゃジジイ!」
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