第27話 これが、魔王

 本戦の日を迎えた。会場は、二人が買おうとしている灯台の真下である。ドナが立会人となり、あたりには結界が張ってあった。


 ドロリィスは、十分に仕上がっている。昨日は午後の間、ずっと身体を休めていた。最後の時間まで肉体をいじめ抜きたかったようだが、ドナからストップを掛けられる。疲労をためた状態で戦うのはよくないと、ドナは判断した。


 対するツィナーも、同じような状態である。


 相手の得物は、日本刀か。鞘に、水の波紋が浮かぶ。装飾ではない。ホンモノの水だ。


 筋肉質だが、ツィナーの本質は人魚らしい。半魚人と形容したほうが、正確かも。


 ツィナーの周りには、相変わらず取り巻きがいた。全員、おそろいの特攻服を着ている。自分たちが戦うかのように、殺気立っていた。


「ではこれより、ドロリィス・テスタロザ対、ツィナー・マイシュベルガーによる、図面武闘会を開催いたします」


 ドナが、試合の宣誓をする。


 集まっている関係者は、司会のドナだけではない。ヴィルヘルミナ女学院の生徒会と、ベイルさんを含めた教職員も、状況を見守っていた。彼女らも、結界の強化を手伝う。


「審判は私が」


 ベイルさんが、ドロリィスとツィナーの間に立つ。

 お互いに礼をさせる。

 二人はもう、この時点でやる気満々だ。


「ツィナーさん、ルールは聞きましたね?」


「ああ。アタイはあの地球人のことはよく知らないけど、寮から追い出しゃいいんだろ? とはいえ、特にモチベは上がんないね。アタイはドロリィスとケンカができりゃあ、なんでもいいのさ」


 ルールなんて、そっちで勝手に決めろとのこと。


「ドロリィスさんも、わかっていますね?」


「把握した。だが今この瞬間に、全力を尽くすのみだ」


「わかりました。では……はじめ!」


 ツィナーが、抜刀とともに、「おらああ!」と切りかかった。あっという間に、距離はゼロまで縮む。


 フィーラも、かなりのスピードを誇る。が、ツィナーはそれ以上だ。まったく手加減がない。刀には水が流れ、より速度が増している。


 だが、ドロリィスはそれ以上の速度でツィナーに突きを食らわせようとした。


 雷属性。それが、ドロリィスの本質である。


 普通のモンスターが相手なら、二人の一撃で勝負は決まっていた。


 しかし、これは魔王同士の戦いである。そう簡単に、決着なんてつかない。



「やるねえ。それでこそ、アタイのライバルさね」


「自分の中だけで語っておいて、ライバル面とはな」


「ほざくんじゃないよ!」


 水圧洗浄機のように、ツィナーは猛突進をしてきた。

 その度に、ドロリィスは神速の動きで攻撃をさばく。多角的な突きで、ツィナーを翻弄する。



 これが、魔王本来の実力か。その辺のモンスターとは、段違いだ。



 ドロリィスが雷属性の突きを繰り出すと、ツィナーは水の障壁を展開して弾き飛ばした。


 電撃を受けて、水が蒸発して飛び散る。


 その一撃だけでも、オレのような人間からすると致命傷に近い。


 ドナの障壁があってくれて、よかったぜ。


「どうしたい? そんな攻撃じゃあ、アタイは倒せないよ!」


「降参したほうが身のためだぞ、ツィナー」


「ふざけろっての! 【濁竜之舞ダクリュウノマイ】!」


 ツィナーが、必殺らしき奥義を展開した。

 もうオレには、二人の姿が見えない。地上にできた渦に、ドロリィスもツィナーも巻き込まれてしまったからだ。

 ドナには見えているようだが。


「カズヤ、お前にも見せてやろう。ドロリィスが勝つさまを」


 オレはドナに、魔力を注ぎ込んでもらった。


 たしかに、ドロリィスが見える。渦に飲み込まれて、身動きが取れない。


 対するツィナーは、渦の頂上に立ってとどめを刺そうと居合の構えを取っていた。


「突きがダメなら……」


 ドロリィスは、靴を脱ぐ。すべての衣服を脱ぎ捨て、白いビキニ姿に変わる。


「身軽になった程度で、アタイの渦に勝てると思ってるのかい?」


「勝てるさ! 【アークサンダー】!」


 なんと、ドロリィスは足の指でレイピアを挟み込んだ。雷魔法を足元に打ち出し、渦から脱出をする。


「な!?」


 そのままドロリィスは急上昇していった。トドメとばかりに、アゴへヒザを叩き込もうとする。


「なめるな!」


 ツィナーも、同時に抜刀した。


 だがドロリィスは、その刀のタイミングにさえ合わせてくる。レイピアを、刀に滑らせたのだ。


「ぎい!」

 

 雷が、ツィナーの腕を痺れさせた。


 たった一瞬の油断。

 そのスキを、ドロリィスは見逃さない。


 ドロリィスのヒザが、ツィナーのアゴにめり込む。


「勝負あり! 勝者、ドロリィス・テスタロザ!」


 渦が晴れて、ドロリィスが地上へ降り立つ。

 同時に、ベイルさんがドロリィスの手を取った。


「ま。負けたよ。久々の大敗北だ」


「お前は、魔法に頼り過ぎだ。どうして、自慢の筋肉に身を委ねなかった?」


「それで負け続けたからだよっ」


 ツィナーが身体を起こして、お互いが握手を交わす。


「さて、負けた方のペナルティだが」 


 オレは、ドナの提案が書かれた書類を読み上げる。


 話を聞いている間、ツィナー側のセコンドだったユーニャさんは黙ってオレの話を聞いていた。




「負けた側の責任者、ユーニャには、シルヴィアのダンジョンの管理者となってもらう」




「へ?」


 ユーニャさんが、呆けた声を出す。

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