第39話 圧倒的強者の蹂躙。

 カネル火山の麓、リグはA+級で体長5mある一つ目巨人と対峙する。クラリスとニーナは後方で控えた。


 人の子ども並みの知能を持ちあわせた一つ目巨人は武器を操れる。


 その辺にあった木を豪腕でメキメキとへし折ると悠々と振りまわす。


 リグはこの魔物をどう仕留めるか思案した。


 ただ単純に討伐しても意味がない。常に極限の死線の中に身をゆだねて少しでも成長の糧としたい。そして新たな戦術を練り上げたい。


 リグにとって無駄な戦いなどひとつもなかった。新たに編み出した技を繰り出すことにする。目の当たりにしたニーナは驚き声をあげた。

 

「アニキが空を駆けたにゃ!?」


「あれは風壁を空中に平面展開させてそれに足を乗せているのです、流石はリグ様」


 リグは透明な階段を駆け上がり一つ目巨人の目の高さに達する。


 ギョッと大きな目を見開く一つ目巨人は駆け登るリグ目がけて渾身の力で木の幹を振りおろした。


 大木は粉微塵となった。高密度の魔力層である風壁にあたって砕けたのだ。


 リグは一つ目巨人の前から完全に姿を消す。


 一つ目巨人はその高性能な巨眼にリグを捉えられなかった事実に戦慄する。


 恐怖にかられた一つ目巨人は最大限の身体強化をし咆哮しようとするも背後から声が聞こえた。


「今さら遅いよ」


 その喉にサクリと切っ先が通った思いきや、そのまま剣が爆発を起こした。


 その首が飛んでニーナの前にガサッと落ちる。大きな目がぐるりニーナを見つけると巨人の頭は最期の足掻きとばかりにニーナ目がけて噛み付こうと飛びかかる。


「ニャー!?」


 ニーナは全身の毛を逆立てて瞬足でクラリスの背に隠れる。クラリスはやれやれとばかりに拳を突き込み、一つ目巨人の頭は弾け散った。


「どうでしたかリグ様?」


「うん、これならいける。もっと強くなれそうだよ。あ、それはそうとニーナ、ダメじゃないか逃げちゃ」


「……アレを見たら逃げろと散々教育されてきたニャ。大声あげられたら沢山仲間来るにゃ。防衛本能にゃ」


「ならまずはアレを倒すこと。期限は一週間。ダメならパーティークビね」


「……は、はいにゃ」


 ニーナは悟った。リグの目は本気だ。それぐらいしないと二人の領域には行き着かないのだと。ならば自分も本気にならないといけない。


 その日からリグが調査を進める一方、ニーナは死に物狂いで特訓を開始する。


 クラリスの剣をヒラヒラと躱すだけでなく、なんとか攻撃に転じれないかと食らいつく。まだまだクラリスが本気でないことはニーナも理解していた。


 それでも絶対にふたりにならび立ってみせるのだ、と食らいつく。


「さっさと諦めて出て行きなさい!」

「いやニャ! 黙れショタコン!」

「なっ!? やっぱり貴方殺します!」

「にゃっ!? それホントに死ぬやつ!」


 三日も経てば、ニーナの脳内はリグとクラリスの言動が常識とばかりにすり込まれていく。休みなどまったくなく昼夜特訓と討伐に明け暮れた。自堕落で不摂生だったニーナの生活はすでに過去のものとなっていた。


 そして死に対する恐怖もどんどん希薄化していった。



 引き換えにニーナの目が狂気を宿し始めるも本人はまるでその自覚がない……



 ◇◇◇



 わずか五日後のこと。


 ニーナは自ら志願し、一つ目巨人と対峙していた。


 リグとクラリスは遠く離れた場所にいる。


 絶対に助けが来ないと分かる距離。


 長年染みついた教え、逃げの一手、圧倒的な死への恐怖がニーナの身体をこわばらせた。


 ここで足を竦ませるか、力に変えるか、それが圧倒的強者となれるかの分岐点。


 数秒の沈黙のあと、ニーナは足を前に進めた。


 雷電を身体に纏い、獣人のしなやかな身体を遺憾なく発揮して突貫する。


 一つ目巨人の振り下ろしの拳がニーナを襲うも、



 ――――あれ、おかしいにゃ。まるで動きが遅い。なんでウチはこんなのにビビってたのにゃ?



 身体能力だけでなく脳思考さえも加速させたニーナは稲妻が駆けるがごとく巨人の拳を簡単に躱すと、手に持った双剣を踵に突き刺す。


 そのまま短剣に電撃を流し込んだ。まだまだ拙い攻撃魔法であったが一つ目巨人の足を数秒間痺れさすには充分であった。


 瞬足をもつニーナはその数秒の時間で十数手にも及ぶ連撃を繰り出す。


 短剣による攻撃は致命傷とはならないが、一つ目巨人は両足の腱が断たれて後ろによろめく。


 その隙を逃すまいと、ニーナは一つ目巨人の膝に飛び、胸に飛び、その大きな眼球に渾身の刺突を決めると最大出力の電撃を放出した。


 眼球と脳を焼き焦がすと一つ目巨人はそのまま力なくドスンと倒れ絶命する。


 ニーナの全身に得も言われぬ快感が駆けめぐった。これが冒険者、これが達成感、これが魔力総量の向上なのだと。


「アニキー! ウチやれたにゃ! どうニャ!」


 リグに褒めて貰いたくて全速力で向かうもリグは平然とした顔で言う。


「おめでとニーナ。じゃあ次、行くよ」


「……もっと褒めてにゃ。ウチは褒めて伸びる子にゃ」


 グチグチと小言を言いつつ場所を移動し始めようとしたその時――――



 ニーナの生存本能が激しい警鐘を鳴らす。



「何かくるニャ!!」



 その言葉を言い終わる前か後か、眩いばかりの紅い閃光がニーナのこめかみをかすめ、リグの左胸へと一直線に向かう。


 だが、ニーナが警告する前、すでにリグは察知していた。


 索敵を半径500メートル範囲に広げており、超高密度の魔力がこちらに接近すると分かると即座に、風壁を最大枚数である10枚重ねて展開した。


 それが一枚、三枚、七枚と簡単に破壊されて超高速のままにリグの胸元に迫る。


 クラリスは必死となって手を伸ばすもまるで叶わない超音速の閃光。


 一瞬をも越える濃密で圧縮された時間の中、光線がリグの風壁すべてを突き破ると心臓を的確に捉えた――――はずだったが、


 リグは防ぎきれない可能性を考慮し、魔剣を胸元に添えていた。


 光線が黒い魔剣に当たると軌道がほんのわずか逸れて肩に被弾、その勢いのままリグの身体は何回転もして吹き飛んだ。



「リグ様ぁあああああああ!!」



 クラリスの絶叫が木霊する。 



――――――――――――――――――――

あとがき


果たしてリグどうなる……


少しでも面白い、続きが気になると思いましたらフォロー、★評価で応援してくれますと大変に嬉しいです。


 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る